トップへ戻る
 
  シェイクスピア・シアター公演 『ペリクルーズ』、『冬物語』      No. 2007-028
 

今年のシェイクスピア・シアター秋の公演は、11月24日(土)から12月2日(日)まで、途中29日(木)の休演日をはさんで8日間、『ペリクルーズ』、『間違いの喜劇』、『冬物語』の3演目をそれぞれ3、2、3ステージで上演された。

今回のステージの特徴としては、これまでと較べてOB以外からの客演が目立ったということがまずあげられる。

そしてその効果が感じられる舞台であった。

シェイクスピア・シアターはいわゆる出口メソッドともいえる独特な台詞回しと所作があり、よくいえばそれが安定した舞台を作り上げるという安心感があるが、悪くすればマンネリズムと臭みになりかねないところがある。

そこへ今回、他劇団のベテランが入ってくることによって、異化作用を起こし、舞台にアクセントを加えるという効果が感じられた。

僕は日程の都合上、『ペリクルーズ』と『冬物語』のステージを見たが、『ペリクルーズ』では、女郎屋のおかみに演劇集団円の岡本瑞恵が、シェイクスピア・シアターの台詞回し、所作と異なる、むしろ淡白に見えるその演技で爽やかな感じを与えてくれた。

若手の客演としては、ペリクリーズの妻となるセーザに文学座の山谷典子、エペソスの貴族セリモンに同じく文学座の西岡野人が演じた。

OBではシェイクスピア・シアターの客演の常連でもある松木良方が、序詞役のガワー、アンタイオカス、サイモニデイーズ、女郎屋の亭主(この人、女郎屋の亭主が一番板についている)と大活躍。

そして退団して間がない松本洋平がヘリケーナスで客演。松本洋平は、ペリクリーズを演じた平澤智之とともにシェイクスピア・シアターの柱的な存在であっただけにその退団が惜しまれたが、この二人が共演すると舞台が花咲く気がする。

『冬物語』では、文学座の田村勝彦がアンテイゴナスの役で客演。こちらもベテランの風合いがあって、舞台に落ち着きを与えてくれた。同じく文学座の名越志保がハーマイオニ、西岡野人がフロリゼルを演じ、OBでは松木良方がカミロー、松本洋平がボヘミア王ポリクシニーズを演じた。

島小百合の退団の後、女優陣ではその中心ともいうべき存在となった住川佳寿子がポーリーナの演技で見違えるような迫真の演技を見せてくれ、その成長振りの著しさを感じさせた。

『冬物語』の舞台全体としては平板な印象で物足りなかったのだが、彼女の演技を見ることで救われた気がした。

さて、『ペリクルーズ』だが。

シェイクスピア・シアターの舞台はほとんど何もない空間での演技だが、この舞台では中央奥に座り机、その上にはどくろの絵が描かれた紙芝居の箱が置かれている。舞台下手前方よりに経机、その上には出生兵が写された写真たてが3つ飾られている。

その経机の前に、マリーナを演じる住川佳寿子が、セーラー服の上着ともんぺ姿で座って本を読んでいる。

彼女は、序詞役の詩人ガワー(松木良方)と和してプロローグのセリフを語る。ガワーもまた、彼女にあわせるかのような国民服姿。その衣裳は、この物語が語られている「その時」としての時代設定を感じさせる。そして「今」という時代に対する象徴的な意味合いを感じさせる。

『冬物語』では、後半(第4幕から)のボヘミアの舞台に移ったところで序詞役の「時」のコーラスが入る。

そこでは、前半でシチリア王リオンテイーズの息子マミリアを演じ、後半ではパーデイタを演じる中島江美留が舞台をまわりながら歩き、手にした絵本を読むようにしてその役を務めるのだが、コーラスの「時」のイメージとしては分かりにくいと思う。僕としては、別の工夫がほしかった。

平澤智之が演じるリオンテイーズの突然の嫉妬心は、セリフだけが激して納得させるものに欠けているのが残念だった(この場面はいつも思うのだが、その嫉妬が唐突なだけに難しい)。

ハーマイオニの裁判の場におけるアポロンの神託の場面も物足りず、演出上の工夫がもっとほしかった。

最後の再会の場面、彫像のハーマイオニが動き出すまでの息詰まるような瞬間は一番の山場である。真っ白い衣裳のハーマイオニは荘厳な輝きを感じさせ、神秘的ですらあった。この場面では、これまでにもよく目頭を熱くされてきたが、今回も感動的であった。

平澤智之と松本洋平、この二人が相拮抗する役柄で共演すると舞台が活気づく気がする。そのためか、松本洋平が抜けた後の平澤智之の演技力も何かそこで止まってしまったような気がしてならないのは僕の思い過ごしか。

女性の場合は宝塚ではないが、トップスターが抜けると次のスターが育つように、島小百合の後、住川佳寿子が大きく飛躍してきたように思う。

シェイクスピア・シアターの道化役は女性の木村美保の独占になってきたようだ。『ペリクルーズ』では女郎屋の召使ボールト、『冬物語』ではごろつきのオートリカスを彼女が好演した。

以前にも書いたが、シェイクスピア・シアターではその若手の成長を見るのが楽しみでもあるとともに、その一方で育った若手が退団していくのが淋しくもある。

今回、退団して間もない松本洋平が参加したことは喜ばしいことであったし、また他劇団員の参加もあって大いに刺激的な舞台となった。これからもこのような企画は積極的に取り入れていって欲しいと願う。

『ペリクルーズ』と『冬物語』の観劇当日、訳者である小田島雄志先生が来られていた。

小田島先生にとってシェイクスピア・シアターはかつて、翻訳即渋谷ジャン・ジャンで上演ということで、ご自身の原点でもあり、出口典雄氏はその戦友ともいうべき存在で、お二人には僕らの想像を超えた強い思いがあることだろう。

「シェイクスピア通信」の案内板によると、早くも来年春の公演の演目と日程が決まっている。

4月29日(火)から5月5日(月)、ゴールデンウイークの真只中で、『夏の夜の夢』と『じゃじゃ馬馴らし』の2演目を俳優座劇場で上演。『夏の夜の夢』はかつていろいろなヴァージョンで楽しませてくれたが、今度はどんなヴァージョンを見せてくれるか。そしてまたキャステイングがどうなっているかも楽しみである。

 

(訳/小田島雄志、演出/出口典雄、11月26日(月)『ペリクルーズ』、30日(金)『冬物語』、
俳優座劇場にて観劇)


>> 目次へ