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  東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)公演『恋のむだ骨』      No.2007-026
 

劇場で手渡されたチラシで早速キャステイングを確認すると、スペインの騎士アーマードや、神父のナサニエル、学校教師のホロファニーズの登場がない。恋の四組となるナヴァール国の側ではロンガヴイルが欠けているし、一方のフランス王女に仕える貴婦人たちにはマライアが欠けている。

で、劇が始まる前に、どうなるの?!とちょっと不安と不満が先にたってきた。

ところが始まってみると、シェイクスピア本人が自作の『恋の骨折り損』を換骨奪胎して、こういう物語を作り上げたとでもいうような愉快な作品。ミステリアスにしてサスペンス的展開で好奇心を満たしてくれる。

ナヴァール王(星和利)は、向こう3年間の学問に精励するため禁欲生活をビローン(井手泉)とデユメーン(森田和正)に誓約させる。その目的はナヴァール王国の歴史編纂を完成させるためである。先王の時までにその編纂の9割は終えているのだが、肝心のナヴァール王国発祥の歴史が不明であり、それを解明することが一大事業である。ビローンはそんなことで3年間も禁欲生活を続けるのはとんでもないと、策を弄する。村の小僧モス(清水まゆみ)に命じて石碑板を作らせ、それをアキテーヌの警察署長(といってもアキテーヌの住人は一人しかいないのだが)で道化役のコスタード(原元太仁)に「笑う月」の丘、通称「たぬき山」に埋めさせる。ビローンはデユメーンがケンブリッジで考古学を専門にしてきたので、彼がそれを発掘するのを期待してのことである。

そこへフランス王女(つかさまり)がフランス王の代理でアキテーヌの返還交渉で交渉役のボイエット(森香緒留)と二人の貴婦人、ロザライン(牧野くみこ)とキャサリン(川久保州子)を伴ってやってくる。アキテーヌはたぬきやアライグマが棲むだけの荒地であるが、フランス王女はそこに宝石の鉱脈があるという情報を得て、買値を吊り上げて是が非でもそれを手に入れようとするが、ナヴァール王もナヴァール王国の発祥を解明するためにもアキテーヌは手放せないと断固拒否する。

交渉に行き詰ったフランス王女は、アキテーヌが元々フランスの領土であったという古文書があるという口からのでまかせを言ってしまう。その証拠の提示を求められ、フランスから取り寄せると約束したもののそれはその場しのぎの嘘であったため、フランス王女は窮余の策として、アキテーヌがフランスのものであったという偽の石碑板をモスに依頼して偽造させる(どこかの国でもこんな捏造がありましたね・・・ロザラインは「ゴッドハンド」と揶揄しましたが)。キャサリンがケンブリッジでデユメーンと同じく考古学を学んできたので、彼女がそれを発掘するのを期待されている。もっともケンブリッジ大学は女性が入れないので、彼女は大学の売店に勤めて講義をひそかに聴講していて、そこでデユメーンと出会ったという設定になっている。

ナヴァール王がフランス王女に、ビローンがロザラインに、デユメーンがキャサリンにそれぞれ恋に落ちるのは『恋の骨折り損』とまったく同じ。ビローンの井出泉と、ロザラインの牧野くみこの言葉の応酬は、さすがに長年のコンビ、ぴったり息が合っている。

さて、そのフランス側の石碑板であるが、モスがたぬき山に埋めようとしたところをコスタードに捕まってしまう。

フランス側は、その石碑版の出現で、ラテン語で書かれたアキテーヌの領土所有権の正当性を主張するが、それが偽造品であることを知っているナヴァール王は、フランス王女の嘘を嘘として告発することにためらいを感じて、本物かも知れないと庇う。ロザラインは「真実が人を傷つけることもある」と言って偽造品の告発に反論するが、王女は潔くそれが偽造品であることを認める。

そこへキャサリンが、ビローンが埋めさせた石碑版を発掘してそれを持って登場してくる。その石碑版にはナヴァール王国の発祥についての秘密がラテン語で記されており、アキテーヌがナヴァール王国に属することが証明され騒然となる。しかしビローンはその石碑版が自分の仕業であることを白状する。

ところが、ヴァール王国の発祥を証明するものが意外な人物から呈示される。

道化のコスタードが「笑う月」の紋章を父の遺言で探し当てたのだった。それは皮肉にも小ローマの模型都市から見つけ出され、しかもローマの遺跡がその下に眠っていることも分かったのだった。

フランスがなぜ、荒地でしかないアキテーヌに固執するのかという疑問に対し、すべてを正直に語ることを決意したフランス王女は、宝石の鉱脈があることをインド人の放浪者から聞いたことを白状する。

それを聞いたモスは、そのインド人も、石碑版を作った人間も皆同じ人間で、すべて口からでまかせの嘘であることを説明する。

『恋のむだ骨』のオリジナリテイであるナヴァール王国の発祥の追及とアキテーヌの領土所有権をめぐっての画策の展開というミステリアスな物語としての面白さ、ビローンとロザラインを演じる井出泉と牧野くみこの言葉の応酬の競演の醍醐味、そして道化のコスタードを演じる原元太仁と清水真弓が演じる物知りモスのセリフの掛け合いの面白さは十二分に楽しめるものだった。

今回一緒に観た娘の七保には、僕の感想と異なってちょっと物足りなかったようである・・・。

オリジナルとの対比での面白さや、最近の相次ぐ偽装事件などから感じる風刺的な面白さなどが分からないとその面白みが十分に理解できないのかもしれない。娘の感想は、それはそれで参考になる意見であった。

 

(脚本/奥泉光、演出・製作総指揮/江戸馨、10月21日(日)、大塚の萬劇場にて観劇)


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