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  りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ 『マクベス』     No. 2007-007
 

再演ではあるが、その変化、変貌だけでなく、進化(深化)を感じる舞台であった。

観客席の照明が落ちないで、まだ観客の開演前のざわめきがある中を、下手の橋懸かりからヘカテ(藤間紫)が静かに登場してくる。その姿に気づくと、観客席がにわかに緊張をおびた静寂に包まれる。舞台中央の前面にまできて、ヘカテはおもむろに手にした杖状の細い棒で観客席に向かって斜め十字の形を切ると、観客席の照明がそこで落ちる。ヘカテは再び橋懸かりへと静かに戻っていく。そこで6人の魔女たちと交差するようにすれ違う・・・・

3人の魔女はそのまま舞台へと進むが、残る3人の魔女は橋懸かりで楽士として残る。魔女たちの衣装が前回とはまったく異なる。前回は赤い派手な衣装でからくり人形の童女のような姿をしていたが、今回は黒を基調とした沈着な色の衣装であった。

魔女たちは「きれいはきたない」の台詞の後、舞台前方で観客に背を向けて胡坐すわりして静かに控えて待つ。橋懸かりからダンカン(菅生隆之)一行が登場し、3人の魔女たちはダンカンに戦況報告をする、傷ついた伝令兵士となる。

前回この観劇日記でマクベス役の市川右近とマクベス夫人の市川笑也の演技に不満を書いたが、今回は台詞と所作に内面的な深みを感じた。特にマクベス夫人が今回は非常に印象に残るものだった。

キャステイングで前回と異なるのは、ロス役が星和利から栗田芳宏に、マクダフが中井出健から河内大和に変わっているのが主だった変化。ロス役の栗田芳宏はいつもながら感じることだが、やはりうまいなと感じた。

バンクオーの谷田歩、ダンカン、門番、医師の3役の菅生隆之、マクダフ夫人の山賀晴代などは前回と同じ。

マクベスとマクベス夫人の道行きの場面は前回と異なっていた。前回は、登場人物のひとりひとりが唐傘をさした6人の魔女たちに手を引かれて舞台中央から橋懸かりを通って消えていき、最後に取り残されたマクベスとマクベス夫人がふたり手を取り合って、道行きの様態で同じように消え去っていくという趣向であった。

今回は、マクダフに殺されたマクベスが最後まで舞台中央に座していて、ヘカテの杖の所作で舞台の照明が落ちた後、再びマクベスが照らし出される。

橋懸かりの奥=彼岸で、マクベス夫人がひとり待っている。マクベスは静かに立ち上がって、その橋懸かりのほうへと進んでいき、そこでふたりは奥へと消える・・・・。

余韻が漂う終わりである。

 

今回、プログラムを読んで非常に参考になったのは衣裳デザイン担当の時広真吾とマクベス夫人役の市川笑也の対談。笑也はその中で、「役者は骨格で、衣裳は肉」だと語り、彼にとってはそれは舞台という戦場に出る鎧甲冑であるという。時広は、「衣裳デザインの舞台に対する貢献度の高さを日本はもっと認識してほしい」というが、その通りだと思う。またその時広の衣裳によって、役者の所作が見えないところでいろいろな制約があって、それに対応する見えない動きというものを知ることができた。その所作の制約条件というのが、緊張感を生むのだと思う。

プログラムは再演ということもあって今回は買うつもりがなかったのだが、気が変わって帰り際に買い求めたが、買ってよかった。

 

(訳/松岡和子、構成・演出/栗田芳宏、国立能楽堂にて4月3日(火)観劇)

 

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