~ 運命の「道しるべ」としての魔女 ~
偶然のことだが、今回の公演を見るに当たっては魔女とマクベス夫人に注目してみるつもりでいた。
その「偶然のこと」というのは、公演のパンフレットを開いてみたとき、演出のパク・パンイルの「口上」に『マクベス』の演出上の無限の可能性として「魔女」の存在をあげていたからである。
舞台はいつもは白紙の気持でみるのだが、時として気になる点に注目してみたくなることがある。今回も特に理由があってのことではないが、ふと魔女をどのように演出するか注目してみる気になったのだった。
開演前の舞台には、8個の頭蓋骨と木刀が散らばっている。
開演とともに、フリフリ(?)の白い衣装の魔女が3人踊りながら登場し、続いて黒っぽい衣装の一団が登場してきて魔女とともに舞台いっぱいに拡がって、床の木刀を拾い上げて力強く踊り始める。魔女の白いフリフリ衣装が鮮やかな印象。
この3人の魔女たちは時に黒子のように登場し、マクベスの宴会の場面ではテーブルを引き出してくる役目など、折に触れて各場面に登場する。が、よくみていると、魔女たちはマクベスが上昇気流に乗っている間はその登場も頻繁であるが、下り坂になってからは出番が少なくなってくる。その分岐点はマクベスが魔女に自分の運命を尋ねに行った後からにあるようだ。
パク・パンイルは、「魔女は、人間の持つ感覚の代弁者であり、運命の道しるべ」という考えを述べている。それを文字通りに受け取るとしたら、マクベスは魔女に自分の運命のありようを知らされたときから、己の感覚を喪失し、運命の道しるべを失ったといえる。
それゆえにその代弁者たる魔女たちはもはやマクベスの周りに登場しなくなる・・・・。
『マクベス』の終わり方もいろいろみてきたが、今回の終わり方にも衝撃性がある。
戦の勝利の印としてマクベスの首を下げ、「国王万歳! いまこそ国王になられましたぞ」といってマルカムの前に進み出たマクダフが、咄嗟の行動で傍らに控えているロスをいきなり刺し殺す。
マクダフはその行為に対して何の説明も釈明もしない。が、われわれにはその理由が推察できるようになっている。というのは、マクダフの城が急襲され妻子一同が惨殺されたとき、ロスがひっそりとその一部始終を見つめている場面がある。その場面を見たとき、なにか意味ありげだとは感じていたが、終わりにこのような形で答えるとは意表をついたものだった。
全員が退場していく中、新国王マルカムは一人残って、ロスの死骸を黙然として見つめる。
そして静かに暗転・・・
キャストは、マクベスに斉藤芳、マクベス夫人が小島典子、マクダフに新本一馬、バンクオーを司越毅。
演出上の意図であるとしても、マクベスが暗殺者に対する執拗なまでの暴力的な行為には違和感があった。
また「明日、また明日・・・」の台詞の場面も工夫は感じられるものの台詞に物足りなさを感じた。斉藤芳は全体として台詞より目の動きがよかったと思う。マクベス夫人の小島典子には清明さを感じた。
台詞力では、マクダフを演じた新本一馬に力強さがあった。
翻訳/小田島雄志、構成・演出/パク・パンイル
3月2日(金)19時開演、俳優座劇場、チケット:4500円、座席:6列13番 |
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