安寿ミラの歌と踊りのハムレット、再再演。再演といっても3回ともその演出はその都度異なり、それだけに今度はどういう変貌をしているのかという楽しみと期待を持たせてくれる。
初演の舞台を僕の観劇日記から再演してみると・・・
<開演とともに。暗黒の舞台を、どこからともなく聞こえてくる鈴の音が、巡礼の一行の旅姿を髣髴させる。その鈴の音は、荷車を押していく旅役者達一行のそれであることがやがて知れる。その旅役者達の一行の姿は、幽鬼か夢遊病者のような足取りで、舞台をゆっくりと、荷車を押しながら蠢く。
<舞台の背景を為して垂れ下がっていた天幕がさっと引き上げられ、そこはテントの芝居小屋となる。片膝をついたホレイショーがその舞台中央で、中空を見つめながら、「ローマ帝国の全盛期、英雄シーザーが暗殺される少し前、墓という墓は空になり」と先ほど見た亡霊について語り始める。そのホレイショーの姿は、当初ハムレットかと見紛うような貴公子然とした凛々しい容姿・・・> (2002年11月)
そして再演は、
<今回のオープニングは、亡霊の登場からである。灰白色のフードのついたマントをまとい、顔や姿は見分けがつかない。その動きは、緩慢で、張り詰めた緊張感がある。その亡霊は、フォーティンブラスを演じる舘形比呂一が扮していて・・・この度の舞台はフォーティンブラスであ始まり、フォーティンブラスで終わる・・・>(2004年2月)。
初演と再演では、ホレイショーを旺なつきが演じ、出演者も初演でクローディアスを演じた吉田鋼太郎が山谷勝巳に変わっただけであとは同じであった。
そして今回。
腹の底に染み渡ってくるような低い地鳴りの音が闇の中より響いてきて、そして鈴の音が聞こえる。が、それは巡礼者のそれではない。舞台中央に、ホレイショー(石山毅)が胡坐をかいた状態で座っていて、バーナードーのせりふを借りて「北極星の西に見えるあの星が今燃え立っている天のあの一角で輝きだしたとき・・・」と語る。
そして遊牧民の天幕の垂れ幕が上がってプロセニアムの舞台と為る。そこには荷車の台座がすえられている。これまでと異なり、今回この荷車は動かない。それぞれの役者達は古びた旅行鞄を下げて登場し、その鞄の中には、それぞれが務める衣装が詰められている。
安寿ミラのハムレット以外は全面的に出演者が変わって、趣もがらりと異なる。初演と同じく、フォーティンブラスも登場しない。舞台前方に並べた旅行鞄を枕にして、ホレイショーを残して、ハムレット、オフィーリア(堀内敬子)、ガートルード(舘形比呂一)、クローディアス(沢木順)、レアティーズとギル(谷田歩)、ロゼ(柄谷吾史)、ポローニアス(斎藤晴彦)の全員が死んでしまう。初演と同じく、ホレイショーに始まってホレイショーで終わる演出。しかしながら石山毅のホレイショーは旺なつきのような華やかさはなく、地味な存在であった。
全体的な印象としては、ブレヒトを思わせるような異化作用を感じる舞台であった。
サンシャイン劇場での舞台初日のせいでの硬さかと思えるような、どことなく噛み合わせの悪さを感じたのは気のせいだろうか。ノリのよさを感じたのは、役者達の劇中劇でクローデイアスが狼狽したのを見てハムレットが歌う、「手負いの鹿」の唄。そして斎藤晴彦の演じる墓堀人の唄の場面も調子がよかった。
クローディアスを演じた沢木順は演出の栗田芳宏の容貌によく似ていたように思う。その栗田芳宏はこの日、僕の二列前の斜めの席に座って舞台をずっと見ていた。
舘形比呂一のガートルードは谷田歩を除いて誰よりも背が高いためひときわ目立った。
演出/栗田芳宏、音楽/宮川彬良、振付/舘形比呂一
2月13日(火)19時開演、サンシャイン劇場
チケット:(S席)7500円、座席:1階15列10番
|