観劇日記 あーでんの森散歩道 高木登
 
  板橋演劇センター公演 『ヴェニスの商人』             No.2006-027

板橋区民文化祭"演劇のつどい・2006" その1

 『ヴェニスの商人』の主人公はそのタイトルからすればアントーニオということになるだろうけれども、その際立った人物像から、ユダヤ人の高利貸しシャイロックその人が主人公のヴェニスの商人であるかのようである。
 僕もシェイクスピアを本格的に読む前までは、ヴェニスの商人=シャイロックと長いこと思っていたものだった。『ヴェニスの商人』ではそういう意味においてどのようなシャイロックが演じられるかが見ものでもある。
 板橋演劇センターによる『ヴェニスの商人』は、センター代表の遠藤栄蔵さんが演じるシャイロックの魅力を超えて、女性たちが主役を奪ってしまったようだった。
 前半はどちらかというと男たちの世界で、緊張感も乏しく眠気に襲われてしまったが、後半部は女性たちが主役をもぎ取ったかのようで、活気を催して眠気を吹き飛ばしてくれた。
 人肉裁判といわれる場面、ポーシャー(伊東陽子)が変装した裁判官バルサザーは、堂々とした名裁判官というより、少しおどおどしていて自信のなさそうな様子でシャイロックに判決を下すところなどは、新鮮な感じがして好感がもてるものだった。
 演出の掉尾は、ポーシャーとバッサーニオ(鈴木吉行)の指輪騒動も落着し全員が舞台を退場した後、二人だけ残ったジェシカ(鈴木幸子)が、ロレンゾー(北川博幸)に母の形見のトルコ石の指輪をそっとはめる。この幕切れは非常に印象的で、新鮮であった。演出の意図もここに集約されているといっても過言ではないだろう。
 板橋演劇センターの長老岡本進之助さん(ヴェニスの公爵役)は、来年は80歳を迎えるという年齢を感じさせない若さで、出演されているだけで安らぎを感じさせてくれる貴重な存在である。
 板橋区民文化祭"演劇のつどい"は今年で25周年目を迎えるという。四半世紀にわたっての地域に根付いた演劇活動に敬意を表したい。そして演じている皆さんの表情が輝いているのが何よりもいい。
 少し驚きであったのは、このような地域の演劇祭の場にも、小田島雄志先生が観劇に来られていたことだった。
 娘と二人で観劇。

 

訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵
11月25日(土)15時30分開演、板橋区立文化会館小ホール、チケット:2500円、座席:H列16番

 

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