『じゃじゃ馬馴らし』の演出には、プロローグの鋳掛屋スライの場面を省略するのがあるが、今回の日欧舞台芸術交流会の高瀬久雄演出の『じゃじゃ馬馴らし』もその一つであった。
それもルーセンショーとトラーニオの主従がパデュアにいきなり登場する場面で始めるのではなく、結婚行進曲の音楽に乗ってルーセンショーとビアンカの結婚式の場から始まり、そこでストップモーションがかかってペトルーチオが、この劇が結婚式の余興の楽しみであることの口上を述べる。
この劇を鋳掛屋スライの夢物語とすることは、現代的に解釈すれば男性優位の女性蔑視に見られかねないこの劇に宥和性を持たせることにもなっているとも言えるが、その意味においてペトルーチオが、この劇は余興であることをあらかじめ断る口上は意味深いものがあると感じた。
この演出では立川三貴が演じるペトルーチオの独り舞台のような印象が強く残り、小川敦子が演じるキャタリーナのじゃじゃ馬ぶりがかすんで感じられるほどであった。
キャタリーナの妹ビアンカ(田野聖子)も姉に対してはいじめられる側にあるけれども、決して弱くて従順な存在でないことをはっきりと強調して際立たせている演出と言える。その様子を、田野聖子が可愛く見えて実は底意地の強さを感じさせる役をうまく表現していた。
役柄全体としては立川三貴が目立ったが、小川剛生のグルーミオの道化ぶりに光るものがあった。というより、立川三貴の独り舞台に陥るのを抑え込むだけの間合いを十分にとっていた。
ドラマ全体がスピーディに展開してテンポはよかったが、反面一本調子に走った感じがしないでもなかった。
今回の舞台では、立川三貴のペトルーチオがやはり一番の見どころであった。
上演時間は、休憩なしで1時間50分。
訳/松岡和子、演出/高瀬久雄
11月5日(日)14時開演、俳優座劇場、チケット:4000円、座席:3列10番
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