観劇日記 あーでんの森散歩道 高木登
 
  6人の俳優で演じるITCL来日公演 『じゃじゃ馬馴らし』         No.2006-014

 ITCL=インターナショナルシアターカンパニーロンドンの公演'The Taming of the Shrew'を東京女子大講堂でわずか1000円のチケット代で観ることができた。
 今回初めてこのITCL公演を観る機会を得たが、シェイクスピアの『じゃじゃ馬馴らし』をコメデイ・デラルテ風の即興劇のような面白おかしさで演出しており、その洗練された演技力と台詞術に感歎しながら楽しんで見た。
 わずか6人の俳優(女優が2人、男優が4名の構成)で、服装を変えることや仮面をつけることでいろいろな登場人物を演じわけ、その表現力のうまさには随所で感心させられた。
 舞台上では簡単な衝立などで居酒屋を表象し、下手には額縁の中に上半身を表出した女性が店に飾られた絵として身動き一つせず立っている。
 開演の合図もないまま、舞台中央では3人の紳士がグラスを片手に会話を楽しんでいるが、客電が落ちてもいないので舞台が始まったようには感じない。
 と、客席後方から、なにやら騒々しい声。それは、酔っ払った状態の鋳掛屋スライで、背中にベッカムの名前の入ったTシャツを着ていて、客席から舞台へと上がっていく。ベッカムのTシャツというだけでも登場人物の距離感が縮まって感じられる。
 居酒屋で酔っ払って寝込んでしまったスライは領主に仕立て上げられ、じゃじゃ馬馴らしの劇中劇が始まっていく。
 6人の俳優で演じるために場面場面において登場すべき人物が欠けているが、うまく脚色されているので、逆にそれが面白さにもなっている。その演じ分けを見ているだけでも十分に楽しい思いがした。
 ペトルーキオが登場する場面あたっては、彼が率いるイタリア軍とトルコ軍の海戦のエピソードが挿入される。そのエピソードをひきずるようにして、ペトルーキオの邸は軍の要塞のように見張り台があって、彼の召使の一人カーテイスは、そこで銃を構えて見張り役を勤めている。ペトルーキオは召使たちを軍隊式に指図するだけでなく、カテリーナに軍隊式の厳しい様子を見せつけているのだと思われる。
 ペトルーキオが3人のうちで一番従順な妻は誰かという賭けに勝って、万事めでたしで幕となるのが一般的だが、ここではクオート版にならってスライが居酒屋のお女将に目を覚まさされ、早く家に帰らないと奥さんにどなられるよと言われるが、スライは夢で見たじゃじゃ馬馴らしでガミガミ女を馴らす手立てを知っているから心配ないとうそぶくものの、彼の女房がのっしのっしと近づいてきて彼を肩に担いで連れ帰ってしまう。 その姿は、カテリーナのじゃじゃ馬馴らしでペトルーキオがやったことをそっくりそのままスライに繰りかえしているというおかしさがあった。これを見ると、『じゃじゃ馬馴らし』の劇は、スライの目覚めの場面がある方が劇全体の説得性があるように思われた。またスライとペトルーキオのダブリングによるおかしさも加わっていた。

 

脚色・演出/ポール・ステビングズ
6月1日(木)17時開演、東京女子大学講堂、一般入場料:1000円

 

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