観劇日記 あーでんの森散歩道 高木登
 
  the L. B. T (小熊座)公演 『オセロー』             No.2006-004

 初めて耳にする劇団名。それもそのはずで、今回が初めての公演。
 劇団L.B.Tという呼称も組織的な劇団を表わすのではなく、「小熊座」というのも代表である演出家の愛称"熊さん"からとったプロデユース名で、寄り合いの即物的団体だという。
 チラシには、「かくもおぞましきgame」、「21世紀のイアーゴ達」とあって、ある種の期待感に触手を動かされたのだが、結果は期待はずれに終わった。
 舞台背景に六本木ヒルズの高層ビルが映し出され、パソコンを前にして原油トレーデイングのマネーゲームが繰り広がれている。原油の暴落で大損をかかえそうになり、トレーダー達は騒然となる。この場面は、トルコ軍のキプロス侵攻を比喩している。
 場面は移って、稲葉(=イアーゴ)と岩崎透(=ロドヴィーコ)が登場し、トレーデイング会社の会長、寺田(=ブラバンショー)の娘萌(=デズデモーナ)がインド人のオセローと秘密に結婚したことをメールで知らせる(現代的手段)。
 原油の暴落が止まり、一同ほっとしたところで寺田はオセローに娘のことを詰問するが、娘の萌が自分の意志でオセローと結婚したことを告げられ、二人の結婚を承諾せざるを得ない。
 個人的問題が片付いた後、寺田はシンガポールの駐在事務所のリーダーとしてオセローを、サブリーダに榊(=キャシアス)を任命する。オセローは妻の萌を伴ってシンガポールに赴任する。
 要は状況設定を原油のトレーデイング・カンパニーにしただけで、話の筋道はシェイクスピアの『オセロー』にほぼ忠実にそって展開していく。買うべきところの工夫は、『オセロー』を単純に現代に置き換えるだけでなく、戦争をマネーゲームに置き換えた着想だが、惜しむらくは状況設定とストーリーのかみ合わせが平行線で、現実味が薄く、マネーゲームの緊迫感が乏しい。ライブドアの事件が世間を賑わしている時だけに、マネーゲームはもう少しシリアスに現実味が欲しいところであった。
 というより、下手な小細工をするより、シェイクスピアの『オセロー』に真正面から取り組んだ方がむしろよかったのではないかと思う。榊(=キャシアス)を演じた斉藤芳は、10年以上前にはシェイクスピア・シアターでシェイクスピア劇を演じていた経験も十分あり、オセロー役は、木山事務所所属の森源次郎で、鍛えられた演技力を持っていると思うだけに残念である。
 いろんな形の脚色、構成でシェイクスピア劇を見ることは、あらためて教えられることも多いだけに、シェイクスピアの潤色に抵抗感をもっているつもりはないが、今回は、余り得るところがなかった。
 しいて言えば、シェイクスピア・シアターの出身者、斉藤芳にめぐり合えたことが、自分にとって初期の演劇体験の邂逅としてなつかしく、収穫であった。しかしそれも、昔の恋人に年取って出会った心境でしかなかった。

 

訳/小田島雄志、構成・脚色/the L.B.T、演出/小林裕
2月25日(土)14時開演、下北沢・東演パラータ

 

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