観劇日記 あーでんの森散歩道 高木登2005
 
  劇団AUN・第11回 『マクベス』&『夏の夜の夢』連続公演     No.2005-012&013

 どちらも再演。
 『マクベス』は03年5月、高円寺の明石スタジオで初演。
 『夏の夜の夢』は、04年12月、同じく明石スタジオ。
 今回は、その2作を12月7日から11日までの5日間でそれぞれ、4ステージ、3ステージ上演。再演とはいえ、初演とはどちらも一ひねり変わっている。

★ 『マクベス』 

 前回の『マクベス』は中島みゆきの歌を主旋律に展開していったが、今回はピアノの旋律で押し通している。前回、遊びが多く入っていたのに対し、今回はどちらかといえばオーソドックスな展開。僕の好みでいえば、前回の演出の方が面白かった。
 今回の特徴をまずあげるとすれば、そのエンデイング。
 マルコムの勝利宣言をもって舞台は終わるのが原作どおりだが、暗転の後、テーブルをはさんでマクベスと マクベス夫人が二人向かい合って座っている。マクベス夫人は臨月近い身重の身で、生まれてくる赤ん坊のために編み物をしている。その笑顔が幸せそのものでいっぱいである。
 マクベスは無言のまま、夫人を温かく見守っている。背後では、魔女たちが再び現れて、「いつまた三人、会うことに?」という冒頭の台詞を繰り返す。
 この終わりを始まりと見るならば、二入の赤ん坊は死産か、あるいは幼くして死んでしまったという隠れた前段があってマクベス夫人の悲劇が始まる、と見られないこともない。
 マクベスには、長谷川耕。全体的にうつむきかげんのマクベスで、品位の格調に満たされない気持がついてまわった。マクベス夫人の死の知らせを聞いたとき、前回のマクベスの谷田歩もそうであったが、今回も重苦しい息詰まるような長い長い沈黙の後、やっと「あれもいつかは死なねばならなかった」と台詞を搾り出す。 そして、「明日、また明日、また明日と・・・」と声を押し殺して台詞が続くけれども、僕にはその格調が物足りない気がした。
 品位の格調という点では、根岸つかさのマクベス夫人も愛くるしいような幼さが目立ちすぎ、マクベスを叱咤する台詞も子供が駄々をこねているような感じで物足りない。
 マクベスがダンカンを殺す前の幻の短剣の場面では、マクベスの前に天井から短剣が一つ、二つと落ちてきて、最後の短剣には血がついているという趣向であったが、これもあまり好ましいとは思えなかった。
気になった点。
 マクベスが王位についた後、バンクオー(牛尾穂積)が一人登場して、マクベスの高みの王座に座って「ついに手に入れたな、国王、コーダー、グラームズ、・・・」と独白する。マクベスが夫人とともに登場してきたとき、彼がその高い位置のままマクベスに挨拶を交わすというのは奇異な感じがした。
 バンクオーの傲慢さを演出したといえば納得もできないではないが、やはり内心の気持を押し殺して臣下の礼を尽くすのが普通だろう。その点が納得いかず気にもなった。

 

翻訳/小田島雄志、演出/吉田鋼太郎
12月8日(木)19時開演、笹塚ファクトリー、チケット:3800円、全席自由席

 

★ 『夏の夜の夢』
 始まりは前回と同じく、セミの鳴き声から。クマゼミ、アブラゼミの鳴き声が最後には金属的な音となって消える。
 浴槽につかったシーシュース(吉田鋼太郎)が、シーシュースに背を向けて槽のふちに腰掛けたヒポリタア(沢海陽子)に婚礼の日が待ち遠しいのを語っている。
 そこへイージアス(星和利)が、娘のハーミア(浅井京子)と、自分が選んだ婚約者デミートリアス(谷田歩)、ハーミアとの恋仲にあるライサンダー(中井出健)を伴ってシーシュースの前に現れ、ハーミアの処分を訴え出る。
 シーシュースは前回同様に真っ裸のまま浴槽から出るが、ヒポリタがすばやく自分のガウンをはおらせる(前回は一瞬、吉田剛太郎の正面の全裸の姿を晒しだしたが、今回は後ろ向き)。ライサンダーとヘレナ(坂田周子)にはメガネをかけさせている。
 ライサンダーはハーミアの父親イージアスの前では妙にちぢこまって、かしこまった存在を演じている。
 ヘレナも、デミートリアスに愛されないことから、卑屈さとひねくれたような表情をしているのが印象的。
 ハーミアの浅井京子は、この役がぴったりのはまり役。森の中でヘレナとの喧嘩の啖呵が見もの(聞きもの?)。
 アテネの職人たちの職業も原作とは変えて登場。ピーター・クインス(松木良方)は大阪弁でしゃべり、ボトム(北島善紀)はラーメン屋で着物を着て、鹿児島弁をしゃべる。ここで軽く観客の笑いを誘いこむ。シスビーを演じるフルートには前回同様に小櫻健一。ひげをはやしたままだが、いつもながら女役がはまっている。
 タイテーニア(森本佳代子)は、アマゾネスを思わせるメイクとヘアースタイル。
 妖精たちもそれぞれに異様な面妖のメイク。
 横田栄司が演じるオーベロンが、時折アドリブの台詞と所作がおかしみと親しみを感じさせる。
パックに、恋の三色スミレを取ってこさせるのを命令するとき、「優しいパック」と呼びかけてもパックがいうことを聞かないと、「お願いだから」とパックに懇願するのも愛嬌。
 そして、パックに取って来させた「恋の三色スミレ」をタイテーニアの目に振りかけようとするとき、そのしずくが自分の目にふりかかり、自分がその効力を被りそうになる。
 パック(長谷川耕)もライサンダーに恋のしずくをかけようとして自分の目にふりかけ、思わずライサンダーに恋してしまいそうになる。
 二晩続けてみた今回の公演では、僕にとっては『夏の夜の夢』の方が面白かった。
 AUNの俳優さんたちのみなぎるパワーにはいつもながら圧倒される。
 ただ今回は、劇場の座席が幼児の椅子程度の小さなもので、椅子の高さが低い分、足も疲れがたまってきて、2時間も座っていると耐え難いほどに尻が痛くなってくるのには閉口した。

 

翻訳/小田島雄志、演出/吉田鋼太郎
12月9日(金)19時開演、笹塚ファクトリー、チケット:3800円、全席自由席

 

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