観劇日記 あーでんの森散歩道 高木登2005
 
 YSG第4回公演 『お気に召すまま』 第11回 横浜演劇祭参加作品    No. 2005-002
 

 正直な話が、私の認識不足で、英語でシェイクスピア劇がここまでやれるとは思っていませんでした(失礼!!)ので、逆に全体の印象として深い感銘を受けただけでなく、楽しく観させてもらうことができました。
  開演時間ぎりぎりで劇場に着いたこともあって椅子席が満席となっており、最前列の座布団の桟敷席に座ることになったのがかえって幸いしました。演技者の息づかいまで伝わってくるほどの近さなので、細かい表情までよく観ることができました。
 舞台を見終わった感想は大変よかったのですが、実は、始まりは非常に心配させられました。

 長身ですらりとかっこいい今井照三さんのオーランドーの登場で始まります。ところが、長兄オリヴァーの仕打ちに不平をぶちまけるその彼の台詞がとんがって聞こえてきて、声に息苦しさを感じさせられました。吐く息よりも吸い込む息のほうが強い感じで、台詞を飲み込んでしまっているような発声に聞こえるせいだと思いました。
台詞の発声という点については、ヒロイン役のロザリンドの岩田麻実子さんにも似たようなことがいえるようです。そのためにロザリンドの引き立て役になるはずのシーリア役の小嶋しのぶさんが役得をして際立って見えました。

この舞台の印象を深めているのは、フレデリック公爵と追放された老公爵の二役を演じたこのグループ(劇団)の座長、瀬沼達也さんの演技力と台詞力が慈愛に満ちていて、なんとも言えぬ温かみを感じさせてくれるところに負っているところが大きいと思いました。二役ということで、前半の追放したフレデリック公爵を演じるときには、表情も演技もオーバーアクション気味に演じて、追放された老公爵との違いを強調させているのが印象的でした。

 フレデリック公爵の廷臣ル・ボーと羊飼いのコリンの二役を務める増留俊樹さんは、演技も台詞回しも実に暖かい感じがして、その人柄がにじみ出るような表現力と笑みが舞台の緊張を和ませてくれました。安心して見ていられる存在だと思います。瀬沼さん同様、包容力のある演技と台詞でした。
台詞力という点では、ハイメンを演じる池上由紀子さんもすばらしい。役柄上出番が少ないのが惜しまれました。
道化タッチストーンを演じた佐藤正弥さん、熱演でした。
追放された老公爵に仕える貴族ジェイキーズの市川治さん、そのメランコリックな表情を、最前列の私の顔に近づけてきて、じっと見つめられた(と思った)時には、思わずどきりとしましたが、重みのある演技でした。
タッチストーンの恋人役、瀬沼恵美さんの田舎娘のオードリーは、明るくて自由奔放だと思いましたが、座長の瀬沼さんのお嬢さんであることを後で知りました。お父さんである座長同様、シェイクスピアの舞台を楽しんでいるのが感じられました。

 演出については、このグループの生い立ちからすれば当然のことでしょうが、台詞を非常に大事にした演出だと感じました。あとでこの公演のパンフレットを見ますと、この舞台を演出した永田清子さんはシェイクスピア・シアターとの関係が深いということで、なんとなく納得できました。
気になったことは、例のジェイキーズが黒マント姿に、黒いフードの衣裳で顔を半分覆って登場してきたことです。まるで死神のように見えました。ジェイキーズは人生を7幕に分けて表現する台詞で有名ですが、このことに関連して言えるのは、「時」の表象でしょう。死神は死を招くということでは、時を支配する存在でもあります。ジェイキーズのメランコリーを、黒の衣装で表象しようとしているのかそこのところは定かではありませんが、印象としては「死神」を感じさせました。ジェイキーズの人生の7幕の台詞に合わせて、スライドで人生の段階の1幕1幕を映し出していましたが、関連性のないスライドを場面に無理やり合わせたように写しているという感じで、かえって台詞を安っぽくしていました。ここは台詞力で勝負して欲しいところでした。同じようなことが、オーランドーがライオンに襲われた話の場面にライオンをスライドに映し出していましたが、これもあまり感心できませんでした。
同じく衣裳で気になったのが、羊飼いの女フィービーが黄色の支那服のような衣装を着ていたことでした。特にどうということもないのですが、ちょっと気になりました。

 舞台を見終わった後、相鉄ムービルの中の焼き鳥屋で、関場先生と、町田の<シェイクスピアを原書で読む会>の新納さんご夫妻とで、観劇の感想など歓談したときの話題として。

最後のエピローグ、ロザリンドの口上がなかったということが新納さんから指摘されました。私はエピローグのことを全く失念していましたので気にもしていなかったのですが、今回の舞台に限って言えば、ハイメンの池上さんの台詞の後ではむしろなくてよかったと思います。

 台詞力の点については、やはり一様に、ヒーローのオーランドーとヒロインのロザリンドの台詞が話題になりました。
また、歌詞と音楽、そして踊りのミスマッチということが関場先生から指摘がありましたが、私個人の印象としては、「楽しむ」という要素を強く感じていましたので、この舞台を成功させているものをあげるとすれば、その「楽しむ」であろうと思います。それが観客の私たちに伝わってくる舞台でした。

 このように、観劇の後でその印象を語り合うことで、自分が見逃していたこと、聞き逃していたことなどをあらためて気づかされ、また違った見方を知るということで、劇の楽しみも印象もいっそう深まることが嬉しいことです。

(演出・振付/永田清子、作曲/福島大地、6月5日(日)、相鉄本多劇場にて観劇)


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