正直な話、私の認識不足で英語でシェイクスピア劇がここまでやれるとは思っていなかった(失礼!!)ので、逆に全体の印象として深い感銘を受けただけでなく、楽しく観させてもらうことができた。
開演時間ぎりぎりで劇場に着いたこともあって椅子席が満席となっており、最前列の座布団の桟敷席に座ることになったのがかえって幸いした。演技者の息づかいまで伝わってくるほどの近さなので、細かい表情までよく観ることができた。
舞台を見終わった感想は大変よかったのだが、実のところ、始まりは非常に心配させられた。
長身ですらりとかっこいい今井照三のオーランドーの登場で始まる。ところが、長兄オリヴァーの仕打ちに不平をぶちまけるその彼の台詞がとんがって聞こえてきて、声に息苦しさを感じさせられた。吐く息よりも吸い込む息のほうが強い感じで、台詞を飲み込んでしまっているような発声に聞こえるせいだと思った。
台詞の発声という点については、ヒロイン役のロザリンドの岩田麻実子さんにも似たようなことがいえた。そのためにロザリンドの引き立て役になるはずのシーリア役の小嶋しのぶが役得をして際立って見えた。
この舞台の印象を深めているのは、フレデリック公爵と追放された老公爵の二役を演じたこのグループ(劇団)の座長、瀬沼達也の演技力と台詞力が慈愛に満ちていて、なんとも言えぬ温かみを感じさせてくれるところに負っているところが大きいと思った。二役ということで、前半の追放したフレデリック公爵を演じるときには、表情も演技もオーバーアクション気味に演じて、追放された老公爵との違いを強調させているのが印象的であった。
フレデリック公爵の廷臣ル・ボーと羊飼いのコリンの二役を務める増留俊樹は、演技も台詞回しも実に暖かい感じがして、その人柄がにじみ出るような表現力と笑みが舞台の緊張を和ませてくれた。安心して見ていられる存在で、瀬沼達也と同じく包容力のある演技と台詞であった。
台詞力という点では、ハイメンを演じる池上由紀子も大変すばらしく、役柄上出番が少ないのが惜しまれた。
道化タッチストーンを演じた佐藤正弥が熱演。
追放された老公爵に仕える貴族ジェイキーズの市川治、そのメランコリックな表情を、最前列の私の顔に近づけてきて、じっと見つめられた(と思った)時には、思わずどきりとしたが、重みのある演技であった。
タッチストーンの恋人役、瀬沼恵美田舎娘のオードリーは、明るくて自由奔放だと思ったが、座長の瀬沼さんのお嬢さんであることを後で知った。お父さんである座長同様、シェイクスピアの舞台を楽しんでいるのが感じられた。
演出については、このグループの生い立ちからすれば当然のことであろうが、台詞を非常に大事にした演出だと感じた。あとでこの公演のパンフレットを見ると、この舞台を演出した永田清子はシェイクスピア・シアターとの関係が深いということで納得できた。
気になったことは、ジェイキーズが黒マント姿に、黒いフードの衣裳で顔を半分覆って登場してきたことで、まるで死神のように見えた。
ジェイキーズは人生を7幕に分けて表現する台詞で有名であるが、このことに関連して言えるのは、「時」の表象であろう。死神は死を招くということでは、「時」を支配する存在でもある。
ジェイキーズのメランコリーを黒の衣装で表象しようとしているのかそこのところは定かではないが、印象としては「死神」を感じさせた。
ジェイキーズの人生の7幕の台詞に合わせて、スライドで人生の段階の1幕1幕を映し出していたが、関連性のないスライドを場面に無理やり合わせたように写しているという感じで、かえって台詞を安っぽくしていた。
ここは台詞力で勝負して欲しいところであった。同じようなことが、オーランドーがライオンに襲われた話の場面にライオンをスライドに映し出していたが、これもあまり感心できなかった。
同じく衣裳で気になったのが、羊飼いの女フィービーが黄色の支那服のような衣装を着ていたことだった。特にどうということもないのだが、ちょっと気になった。
舞台を見終わった後、相鉄ムービルの中の焼き鳥屋で、関場先生と、町田の<シェイクスピアを原書で読む会>の新納さんご夫妻とで、観劇の感想など歓談したときの話題として、最後のエピローグ、ロザリンドの口上がなかったということが新納さんから指摘された。私はエピローグのことを全く失念していましたので気にもしていなかったのだが、今回の舞台に限って言えば、ハイメンの池上さんの台詞の後ではむしろなくてよかったと思った。
台詞力の点については、一様にヒーローのオーランドーとヒロインのロザリンドの台詞が話題になった。
また、歌詞と音楽、そして踊りのミスマッチということが関場先生から指摘があったが、私個人の印象としては「楽しむ」という要素を強く感じていたので、この舞台を成功させているものをあげるとすれば、その「楽しむ」であろうと思う。それが観客の私たちに伝わってくる舞台であった。
このように、観劇の後でその印象を語り合うことで、自分が見逃していたこと、聞き逃していたことなどをあらためて気づかされ、また違った見方を知るということで、劇の楽しみも印象もいっそう深まることが嬉しいことであった。
演出・振付/永田清子、作曲/福島大地、
6月5日(日)14時30分開演、相鉄本多劇場
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