あーでんの森 散歩道 高木登2004
 
  りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ 第二弾
           『リア王』 ― 影法師 ―        
No. 2004-025

 リア王を軸にして、3人の娘ゴネリル、リーガン、コーデイリアと道化、その他の登場人物は3人の影法師が一体となって演じる。そして黒子が従者を務める。
 リア王(白石加代子)以下、全員が女性。プログラムで出演者のプロフィールを見ると、主演の白石加代子を除き、一番年配者が21歳の従者役の岡田光恵で、新潟県三条市生まれ。あとは全員新潟市出身で、20歳以下。なかでもコーデイリアの町屋美咲は12歳とまだ幼さが残る年齢。
 出演者が新潟出身者で占められているのは、新潟市民芸術文化振興財団が主催・製作という背景による。
 それにしてもこれだけ若い人たちによるシェイクスピア劇というのも珍しい。しかも能楽堂を使用した演出で推察できるように、伝統芸能である能の演技を踏襲した、画期的な地域演劇の活力ある舞台である。
 能の伝統的様式に、宮川彬良作曲のピアノ演奏が微妙に融合していた。
 シェイクスピアという英国の伝統演劇に、日本の伝統芸能である能の様式で、シェイクスピアの台詞を対等化させる試みといってもいいだろう。
 シェイクスピアの言葉が醸し出す音韻の詩的世界を翻訳で再現することは不可能であろう。
 それならば、日本の伝統芸能である能という様式で再現するチャレンジ、そのように私は解釈してみた。
 白石加代子が、その台詞力と演技力で、能の様式美を駆使して新たなリア王像を作り出した、ということで特筆される。顔の表情の変容が凄い印象を感じさせた。
 3人の娘以外と道化以外の登場人物は、3人の影法師が一体となって演じ、ケント伯もエドマンドもグロースター伯も、コーラスのような役割となる。
 栗田芳宏の演出では、登場人物をこのようにコーラスの役割を担わせることがよくあるように思われる。本来特定された人物が無人称化され、抽象化される。リア王がシテで、3人の娘はワキという能の様式に、ギリシア悲劇のコーラスを加えたようなものともいえる。
 嵐の場面のリア王、コーデイリアの死を嘆くリア王、いずれも激しい咆哮の台詞であるが、その激しさは内面に閉じ込められ、抑制されたような響きに聞こえた。


翻訳/松岡和子、構成・演出/栗田芳宏
12月27日(月)19時開演、東中野・梅若能楽学院会館、チケット:(S席正面)6000円、座席:正と列15番

 

>> 目次へ