あーでんの森 散歩道 高木登2004
 
   ク・ナウカ公演 『マクベス』                No. 2004-020

~ マクベス夫人は、マクベスの分身 ~

 ク・ナウカの『マクベス』を理解するためには、ク・ナウカが1990年に創設以来一貫して探求してきたという「二人一役」の手法について理解しておく必要があるだろう。
 2001年の春、新利賀山房での『マクベス』初演では、阿部一徳がマクベスの台詞、所作とマクベス夫人の台詞の3つのパートを一人で演じるというところに特徴があったということである。
 今回、下北沢・ザ・スズナリの公演は初演の手法とは異なり、今年1月にパリで上演した新演出版と同じだという。
 初演と異なり、阿部一徳はマクベスの台詞と所作のみで、マクベス夫人の台詞は一部を除いて語らない。その例外の個所は、マクベス夫人が夢遊歩行の場での罪に汚れた手を洗う場面で、この場面では台詞だけでなく、マクベス夫人そのものも阿部が演じる。
 所作と台詞が一致してあるのはマクベスのみで、他の登場人物は所作と台詞が切り離され、台詞は黒子の人物がコロスのようにして語られる。
 マクベス以外の登場人物の所作は、コロスの台詞によって操り人形のような動きをする。その所作は人形遣いの人形のように、 時に緩慢でぎこちない。しかし、手足の末端をよく見ていると、全身緊張の糸が張り詰めたように、筋肉が緊張で、鋭利な鋼線のようであり、無駄な動きがすべて削ぎ落されている。
 マクベス役の阿部を除いて、登場人物全員が黒紋付を着た女優だけで演じるというのも大きな特徴となっている。
 登場人物の所作と台詞がまったく切り離されて、登場人物の所作が人形のような動きであるだけでなく、その表情も無表情で、人形そのものである。
 登場人物の役を演じる側は、役どころを示すように、口元にフィルムのような素材の銀色の髭などをつけてそれと示すが、その台詞を語る黒子の方は何もつけていない。
 マクベスがマクベス夫人をも演じるというその手法の背景には、マクベス夫人はマクベスの分身であるというク・ナウカの考え方にある。そのため、マクベス夫人は他の登場人物と異なり、黒紋付姿ではなく、花嫁姿を思わせる様相をしている。
 また、魔女は、生まれることなく流された赤子(水子)と見なされ、登場してくる3人の魔女たちも赤子の恰好をしている。魔女たちの台詞と所作の同一性はマクベスと同様であり、マクベスが自分の運命を知ろうと この魔女たちを訪ねてきたとき、魔女たちはそれぞれが自分で台詞を語る。
 マクベス以外は全員がコロスの役を担っているようなドラマで、マクベスを中心にしてすべてが回る。
 舞台の特徴としては、開幕前からBGとして静かに詠われ続けられる御詠歌の悲し気な響きにある。その御詠歌が予兆的に聞こえる。そして、舞台一面には、白い風車が無数にあって、それが花壇をなしている。その白い風車は、照明によって真っ赤な風車となり、ヒナゲシを思わせる。
 ダンカンやバンクォーが殺された後の場面では、韓国の物悲しい民謡が流されるが、それが不思議な調和を感じさせた。

 

訳/松岡和子、構成・演出・美術/宮崎聡
11月12日(金)19時30分開演、下北沢・ザ・スズナリ、チケット:4300円、座席:B-4

 

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