あーでんの森 散歩道 高木登2004
 
   劇団AUN公演 『オセロ』        No. 2004-007
 

 RSCの『オセロ』を観て間がないだけに、劇団AUNの『オセロ』は期待と興味を感じた。
 劇団の代表でもある演出者、吉田鋼太郎が公演に寄せてチラシに書いていることがまた以外でもあった。シェイクスピア俳優として実績の長い吉田鋼太郎にして、これまでまったく『オセロ』には縁がなかったという。出演も演出もないし、観たことすらないという。彼も言っている。何故だろうと。
 実は『オセロ』については、僕もこれまでシェイクスピアの四大悲劇の中では数えるほどしか観ていない。何故だろう?
 その吉田鋼太郎の初『オセロ』の演出は、RSCの『オセロ』同様に、テンポの早い進行であった。休憩なしの2時間10分強の上演時間という長さ(あるいは短さ)が、あっという間に過ぎ去った。
 サンシャイン劇場という大劇場を特設劇場にしつらえ、舞台側を観客席にして小劇場なみの観客席とし、観客席を舞台の一部として活用して舞台との距離を短くしているので、それだけ親近感が高まる。
 開幕のイアーゴとロダリーゴは、その観客席を舞台にして登場する。
 観客席を舞台にして効果的なのは、キプロス島の冒頭の場面である。二階席から嵐の海を見張る兵士たち、そして荒れる海からキプロス島に上陸してくるデズデモーナの一行は一階の観客席から走ってくる。

 キャステイングで以外だったのは、ロダリーゴ役の鶴忠博。デズデモーナの求婚者だから、もっと若い俳優がやると思っていたから、これは以外だった。しかし『じゃじゃ馬ならし』のグレミオではないが、求婚者だからといって、別に若くある必要はないわけで、これは逆に面白いと思った。ロダリーゴを道化として扱った演出と取れる。
 オセロを演じた中井出健は、『冬物語』のリオンテイーズ役に続いての嫉妬に狂う役。彼の台詞力は、その『冬物語』でも十分に感じさせてもらったが、今回も熱演。RSCの『オセロ』のカ・ヌクーベのオセロを観た後なので、身体の大きさからすると、キャシオを演じた大柄な谷田歩にやらせても面白いのではないかと思った。
  僕が個人的に思っている一番おいしい役エミリアには、林佳世子さん(彼女だけ「さん」付けは、直接知っている関係で)。おいしい役をおいしくこなしていて期待通りだった。特に、デズデモーナのハンカチの事件が、信頼する夫イアーゴの姦計であったことを知った時の、彼女の絶望的な悲観の叫びは壮絶で、3日間4ステージ無事に声が持つだろうかと思えるほど圧巻であった。
 抜擢は、イアーゴ役の長谷川耕。最初の感じは、自分の中にあるイアーゴ像とは異なるので違和感があったが、演出の面白さもあって、意外なイアーゴ像としての印象が生まれた。メガネをかけ、どちらかというと秀才肌の冷たい感じで、爬虫類的冷ややかさを感じさせるイアーゴである。オセロに嫉妬を煽る場面では、イアーゴはタイプライターを打ちながらオセロに話しかける。軍人というより官僚といった感じがした。
 そのイアーゴは、結末で意外な場面を提供する。すべてがイアーゴによる姦計であったことが分かったオセロは、隠し持ったナイフでイアーゴを刺す。二人はお互い組み伏せあいながら、最後はオセロが馬乗りになってイアーゴの腹部に止めを刺す。イアーゴはそのまま動かないので死んだものだと思っていると、オセロが自害した後意識を戻すが、ヴェニスの使者である貴族の命令で絞首刑に処せられる。その絞首刑の場が、再び観客席。
二階席から首吊り縄が下げられ、横には、象徴的に老木が1本。イアーゴの処刑で幕を閉じ、暗転してそのまま、その 場所がカーテンコールの場となる。見事なフィナーレであった。
 終演後、偶然一緒になった後藤虎男さんと、林さんに挨拶した。
 この日は初演で、間宮啓行や松木良方など、劇団関係者が多く来ていたのが目立った。

(訳/小田島雄志、演出/吉田鋼太郎、サンシャイン劇場にて、4月23日夜観劇)


>> 目次へ