あーでんの森 散歩道 高木登2004
 
  『アル・ハムレット・サミット』        No. 2004-003
 

東京国際芸術祭+スレイマン・アルバッサーム・シアターカンパニー国際共同制作

NPO法人ネットワーク・ジャパン主催により毎年開催される東京国際芸術祭は、今年10回目を迎える。今回のフェステイバルのメッセージとして、「演劇の社会的な力の回復を求める」、「文化の多様性あるいはグローバリズムと文化の関係に我々なりの回答を出す」、「イスラーム文化への理解を深める」という3つのテーマが設定されている。1ヵ月半に及ぶ期間中、都内9ヶ所の劇場で参加作品18演目が上演され、中東からは、クウエート、レバノン、パレスチナの3国が参加している。

クウエートからは、アラブ演劇界の若きリーダー、スレイマン・アルバッサームが、2002年カイロ国際実践演劇祭やエジンバラ・フリンジフェステイバルで高い評価を得た英語バージョンのハムレット翻案劇を、新たにアラビア語バージョンに創作しなおし、シリア、サウジアラビア、レバノン、イラク、そしてイギリスから第一級の俳優を集めて1ヶ月に渡るクウエートでの稽古を経て来日し、世界初演として上演した。

舞台中央には映像用の大きなスクリーンがあり、椅子とデスクが2つずつ3列、舞台奥から前方へ末広がりに並べられている。一番奥の席は、クローデイアスとガートルード、次にポローニアスとレアテイーズ、最前列がハムレットとオフイーリアのネームプレートがデスクにある。登場人物はこの6人に加えて、武器商人が登場する。殺されたポローニアスが最後にはフォーテインブラスを演じ、オフイーリアは、国連の伝令役も演じる。

とあるアラブの小王国で先王が急死し、ハムレットが留学先から急遽帰国する。その帰国の様子が中央の大きなスクリーンにシルエットとして映し出される。

クローデイアスの謁見の場は、サミットの形式を取り、それぞれ自分のネームプレートの席につく。スクリーンには、スピーチをしている人間が大写しで映し出される。

ハムレットにとって重要な人物であるホレイショーがここでは登場しないが、武器商人が別の意味合いにおいてその役割を担っているようにも思える。他の登場人物の会話はアラビア語であるが、彼の登場の場面では英語が使われることから、アメリカ人の武器商人ともとれる。その武器商人が持ってきた解放軍のばら撒いたビラによって、先王である父の死がクローデイアスによる暗殺であることをハムレットは知る。

先王の死をチャンスにしてハムレットの王国に攻め込もうとしているフォーテインブラスは、かつてのイラクのクウエート侵攻にダブらせることもできる。

武器商人が調達した爆弾によるオフイーリアの自爆は、現在のパレスチナの自爆テロを彷彿させる。

一方、ポローニアスを誤って殺したハムレットは、40日間父の墓穴に潜み、あごひげをはやし、ターバンを巻いたイスラーム原理主義者へと変貌し、レアテイーズの率いる政府軍と戦う。

その解放戦争を通してガートルード、レアテイーズ、クローデイアス、そしてハムレットと次々に死んでいく。そして誰もいなくなったところに、フォーテインブラスが登場してきて、自分こそが「聖書に基づく権利をこの地に有している」と宣言し、武器商人と共に新しい国家の創生に着手する事を誓う。

フセイン政権の崩壊したイラクを現在進行形の目で見ている我々には、このハムレットの小国に明日の平和な未来を感じることはできないだろう。フォーテインブラスは第二のクローデイアスであり、フセインでもある。

『ハムレット』という、いうなれば世界共通演劇ともいうべき素材を通して、中東の現代史のメッセージを我々はここに見ることができる。日本という国が、イラクに自衛隊を送り出したことで、我々はもはや傍観者ではなく、当事者として、あるいは共犯者になるかもしれない・・・

(作・演出/スレイマン・アルバッサーム、新宿・パークタワーホールにて、2月14日観劇)


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