あーでんの森 散歩道 高木登2004
 
   木山事務所公演 『仮名手本ハムレット』               No. 2004-002

~ 再演の再演を観る楽しみ ~ 

 今回で5度目の公演でキャスティングもかなり入れ替わっているが、新たな発見もあり再演を観る楽しみを十分に味わった。
 ブースのハムレットをアメリカで観た宮内男爵(林次樹)が、日本で初めてシェイクスピアの『ハムレット』を上演しようと、新富座の守田勘彌(木場勝巳)の金主となって、男爵自らが日本で初めての演出家を務める。
 守田勘彌は、どういうわけか新富座の看板には『仮名手本忠臣蔵』の演目をあげている。
 『ハムレット』を演じるのは歌舞伎役者たち。
 しかしその大半は西洋劇に反感を抱いており、自分達が演じるのは看板通り『仮名手本忠臣蔵』だと思っている。
 が、そうでないと知ったガートルード役の女形の役者は「二夫にまみえる姦婦の役などまっぴらだ」と、総ざらいの稽古にやって来ない。
 そのガートルードの代役を演じることになるのは、それまで脇で見物していた、一回りも歳をごまかしている70歳になる女形の花紅(坂本長利)。旧弊たる他の役者たちとは異なり、新しいもの好きで、嬉々としてガートルードを演じる。その歳とった女形を演じる坂本長利がガートルードを可愛く演じ、うまいと思わせた。
 西洋劇の『ハムレット』に反感を抱いていた役者たちも、『忠臣蔵』も『ハムレット』も仇討ちの芝居であるという共通性と、登場人物の相関関係も実に似通っているという説得で妙に納得してしまい、次第に稽古に実が入っていく。
 ハムレットの名台詞、'To be, or not to be'の場面では、ハムレットを演じる薪蔵(村上博)が、頬かむりをして旅合羽の姿で登場し、台詞も妙な歌舞伎調で、所作で大見えを切るのには笑わされるが、洋行帰りの男爵を演じる林次樹が、それを見てあきれて呆然自失となる演技も、漫画チックなおかしみで笑わせた。
日本で最初の演出家たらんとする男爵は、その場面をハートで演技するように指導するが、薪蔵にはそれが理解できない。彼だけでなく、まわりの役者たち全員が理解できない。
 仇討ちの立場にある者が、なんで「ながらうべきか云々」などと悠長なことを言っているのか分からないという。
 その疑問を解決するのは、総ざらいを見物している新聞記者の岡本綺堂。
 ハムレットの逡巡は敵方をくらますために祇園で遊興に耽る大星由良助の立場と同じで、遊興している自分は仮の姿か、はたまた仇討ちのことなど忘れてしまっているのが本当の自分なのか、未分化の状態であるのと同じだと説明して納得させる。
 守田勘彌の一大プロジェクト『ハムレット』は、新富座が大阪の興行師、堀谷文次郎に買い取られ、あえなく潰える。新富座の出し物の看板に『忠臣蔵』をかけたのは、守田勘彌が堀谷文次郎の目をごまかす深慮からであった。
 『ハムレット』の看板をあげれば、その前評判で新富座の株も上がって買い取れなく亡くなるのを恐れて、先手回しされないように隠していたのだった。しかしそれも、半十郎の裏切りの密告であえなくもれてしまった。
 守田勘彌は失意のうちにその場に倒れてしまう。それを抱きかかえる岡本綺堂をホレイショ―、抱かれる守田勘彌をハムレット、そして興行師の堀谷文次郎をフォーティンブラスに重ねて終幕となる仕掛けとなっている。
 守田勘彌の『ハムレット』は上演されないままで終わるが、バックステージものとしての面白さを提供してくれる。
 斬新な企画で日本の演劇界、歌舞伎を中心にした芝居の世界に新風を吹き込もうとした守田勘彌は、今でいうプロデューサーのさきがけであった。その事を今回の守田勘彌役の木場勝巳によって強く感じさせられた。
 『仮名手本ハムレット』を繰り返し観ているうちに、歌舞伎調の『ハムレット』を一度見てみたいと思った。

 

作/堤春恵、演出/末木利文
1月25日(日)14時開演、東京芸術劇場・中ホール、チケット:3800円、座席:B列5番


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