日欧舞台芸術交流会 イヨネスコの 『マクベット』   No. 2003-021
 

 平成15年度文化庁国際芸術交流支援事業、日欧舞台芸術交流会として、11月26日かr30日までの5日間で、俳優座によるシェイクスピアの『冬物語』とイヨネスコの『マクベット』がそれぞれ3回ずつ上演され、キャストも大半の俳優が両方の作品に出演している。

 演出家のカラミトルの名前に記憶があったので調べてみると、一昨年の日欧舞台芸術交流会で『ヴェニスの商人』を演出していた。そのときの出演者も、今回と8人が同じであることに気がついた。また台本はすべて松岡和子の新訳によっている。それでその時の「観劇日記」を見てみると、<開演と同時に、登場人物達が剣道の試合着のような黒い衣装で、パントマイムの踊り。東洋的なイメージの中にも異国的な雰囲気を漂わせる>と書いてあり、衣装と雰囲気は今回も同じ印象を与えている。

 今回の開演の趣向は、開演前の役者達のウオーミングアップの風景から始まる。開演前の舞台照明が消えないまま、俳優達が登場しそれぞれ勝手に柔軟体操や私語をしている。

 物語の展開はシェイクスピアの『マクベス』とは少し異なり、イヨネスコによる『マクベット』なので、話の展開そのものに興味が湧く。

 グラーミス男爵(関口春雄)とカンダー男爵(星野元信)が、ダンカン王(中野誠也)の悪政に造反の相談をしているところから始まる。マクベス(小山力也)とバンコー(石田大)は、そのダンカンの忠実な部下である。シェイクスピアでの「領主」という名称が「男爵」となっているのは、物語の展開の中で理解できることだが、名目だけで実質を伴っていない爵位である。グラーミスとカンダーがダンカンに造反するのは、領主としての実権がない、収入がないことに対する反乱である。ダンカンは吝嗇な小心者で、臆病者だが、形勢が有利となると威丈高となる。

マクベスとバンコーが反乱を鎮圧すると、魔女の予言通りにカンダーの男爵の爵位はマクベスに贈られるが、領地からの収入はダンカンのものとなる。一方逃げ延びたグラーミスを生死に関わらず捕らえれば、その爵位はバンコーのものであるという約束は、グラーミスの溺死で生死が不明という理由で反故にされる。

 吝嗇で臆病なダンカンには妻(小川敦子)と妾(執行佐智子)がいる。ダンカンの妻、つまり王妃は実は魔女で、ダンカンの殺害と結婚の約束でマクベスを王位に就くことを誘惑する。その陰謀にはダンカンから約束を反故にされたバンコーも一枚加わるが、マクベスが王位に就くとともに、裏切りを感ずかれマクベスから殺される。

 マクベスとマクベス夫人(元ダンカン夫人)の結婚式の後、二人の披露宴の席にマクベス夫人は現われない。マクベス夫人は魔女返りして、マクベスの元から去ってしまう。披露宴の席には女主人が不在なだけではなく、ダンカンとバンコーの亡霊が登場し、マクベスを狂わせる。

 女から生まれた者にはマクベスは殺せないという魔女の予言は、バンコーとダンカン夫人(実は魔女)との間に生まれた不義の子マコール(石田大)、つまり魔女の子どもによって倒されるということで覆されてしまう。

 そしてこのマコールが王としてふさわしくない人格は、『マクベス』のマルカムがマクダフに語る悪徳の人そのものの化身である。

 このようにイヨネスコの『マクベット』は未来に救いのない物語として終る。この物語は、ダンカン夫人とマクベス夫人となる魔女が主人公といえる。その趣向が興味を引く作品であった。

(作/イヨネスコ、訳/松岡和子、演出/イオン・カラミトル、11月30日、俳優座劇場にて観劇)

◆演出家イオン・カラミトルについて
 
シェイクスピア劇の俳優でもあり、ハムレット、ロミオ、ブルータス、フェステなどの役を演じたことがある一方、ブカレストのLucia Strudza Bulandra Theatreのジェネラル・マネージャー(1989-1990)やルーマニアの文化大臣も務めた(1996−2000)


>> 目次へ