ASC公演、人間関係チーム 『ハムレット』    No. 2003-019

 昨年から始められたアカデミック・シェイクスピア・カンパニーの新しい挑戦、シェイクスピア四大悲劇の同時2バージョンの公演第二弾。一つは4人の俳優で演じる『ハムレット』、そして今一つはアカデミック・シェイクスピア・カンパニーがシェイクスピアを、常に独自のテーマ性をもって上演するバージョンの『ハムレット』で、二つともダイジェスト版でなく完全版としてのチャレンジである。4人で演じる『ハムレット』は残念ながら観ることはできなかったが、そこでは彩乃木崇之がハムレットを演じ、劇団の創立者の一人である鈴木麻矢が久々に出演し、オフイーリア、ホレーシオ、墓掘りの三役を演じている。ガートルード、ポローニアス、レアテイーズ、ローゼンクランツを塩崎雅美が演じ、クローデイアス、先王、ギルデンスターン、オズリックは西森寛が演じている。

 4人で演じる『ハムレット』を裏バージョンとすれば、表バージョンは、テーマとして「人間関係」を掲げている。そしてこちらのハムレットは、やはり劇団の創立メンバーの一人である菊地一浩が演じ、裏バージョンでハムレットを演じた彩乃木崇之はクローデイアスを演じている。男性の俳優は、あとはホレーシオを演じた福井雄一郎の3人のみで、ガートルード、オフイーリア役はもちろんのこと、レアテイーズ、ポローニアス、ロゼ、ギル、墓掘りをはじめすべての役が女優によって演じられる。

 まず意表をつくのは、ハムレットの衣装であろう。なんと真っ白な装束。わずか左の袖口が錦織のような刺繍模様で、あとは胸元の首から腰にかけて黒のフリルがのぞいて見えるだけである。クローデイアスも同様で、白いトレーナのような衣装に、首のあたりはカラーに模した徳利型。ホレーシオ、オフイーリア、レアテイーズ、ポローニアス、ロゼ、ギル、役者たち、墓掘りなどの衣装は対照的に真っ黒である。彼らはそれ相応に台詞はあるのだが、全体としての印象は全くと言っていいほど、黒子としての存在のような、いわば風景のような登場人物に感じられた。

 ハムレットとクローデイアスの二人を軸にした人間関係のドラマという印象が強い。特に彩乃木崇之にとっては、4人で演じる『ハムレット』でハムレットを演じており、ここでクローデイアスを演じることで、いわばハムレットとクローデイアスとを鏡に映し出すような関係においている意図があるのでは、と思った。裏バージョンを見ているわけではないので推測に過ぎないが。

 菊地一浩のハムレットは一口に言えば、非常にストイックで、自己抑制的で、静的なハムレットである。尼寺のシーンでその特徴がよく出される。オフイーリアに向かって言う台詞「尼寺へいけ!」は、非常に静かに内面に語りかけるようにして言われる。レアテイーズとの試合の場面は、すでに受けた傷の毒で瀕死の状態にあるハムレットが、ホレーシオの腕に抱かれた姿で、試合の一部始終が語られ、その背後でガートルーズが毒杯を飲み、クローデイアスが倒されて死ぬ場面が演じられる。動きでではなく、顔に自らが手にしてあてていた懐中電灯のスポットライトを切ることで死を表象する。

 小道具の王と王妃の人形を使って役者たちの芝居の場面を演出する趣向も、場面の変化をうまく作り出すという効果をもたらしている。那智ゆかりのガートルーズも好演であったが、金子あずみの墓掘りとオズリック役も愛嬌があった。そして韓国のチャン・エリョン演奏のマリンバが効果を大いに高め、最高。

 上演時間は休憩なしの2時間10分ほどで、かなり切り詰めた『ハムレット』となって、テーマである「人間関係」がハムレットとクローデイアスの二人の関係に集約されて感じられた舞台であった。

(訳/小田島雄志、演出/彩乃木崇之、銀座みゆき館劇場にて、11月21日(金)夜の部観劇)


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