『ハムバット〜蝙蝠男の復讐〜』        No.2003-007
 

〜 狂気が正義を駆逐する妄想のハムレットが犯す殺人 〜

 全労済スペース/ゼロの舞台を洞窟と化し、舞台前面には川を流し、両翼は崖を模して、その岩肌からは清水が間断なく流れ落ちるようにしている。開演前の舞台は、その洞窟からこのドラマのタイトルともなっている蝙蝠が今にも飛び出してきそうな、予感に満ちた装置となっている。

 口上役が登場し、この劇がプロット劇の構成となっており、決まった台詞の台本がないことを告げる。この口上役は、この舞台の主人公役である国選弁護人アケ・チチコ(明智小五郎探偵をもじっている)であることが後で判明する。この口上役の挨拶の後、心音をメカニックな音に変じたような切迫した音楽が緩やかに収まった後、舞台の前面の小川を黒の褌一枚の役者たちが泳ぐようにして登場し、舞台の上で舞踊する。

 暗転した舞台から、アケ・チチコが懐中電灯をもってこの洞窟に登場する。そこで彼女が出会うのは、コ・バヤシ少年(明智小五郎の助手小林少年をもじっている)。このコ・バヤシ少年は人物の二重性を担っている。アケ・チチコ国選弁護人の被弁護人土方健少年がその本来の姿である。コ・バヤシ少年こそは蝙蝠男ハムバット(黄金バットXバットマン)であり、かつ土方健少年は狂気のハムレットである。彼は20歳にもなって、いまだに詰襟の学生服を着ている(ハムレットの黒の喪服姿を想像させる仕組み)。

 アケ・チチコはこの土方少年の国選弁護人として、彼の殺人の動機を探ることが、この洞窟の探検をさせている。この洞窟の内部装置をよく見ると、人間の脳の構造を模したように、右脳左脳と分かれて、無数の血管が走っているように見える。そしてこの大脳に模した装置に電飾がともる時、ロールシャッハの模様を想像させる絵柄が点される。アケ・チチコは、土方少年の脳髄を探っていたことが表象されるような構成である。

 この舞台で繰り広げられる事件・出来事は、すべて土方少年の記憶の中にある出来事である。アケ・チチコはそれを探り、引き出している。われわれはそれを舞台の上の出来事、ドラマとして提示される。

 土方少年の表層の記憶では、彼の父は彼の叔父に殺される。このプロットはシェイクスピアの『ハムレット』と全く同様な展開を示す。土方少年の父は、叔父によって神沼に沈められて殺される。彼の父は東北の地元土建会社の社長で、神沼を埋め立てて一大レジャーランドを作り上げたが破綻して、今では叔父がゴッドスワンプの老人ホームに作り変えた。その土建会社の営業部長橋の下捨吉がポローニアスに相当する役目。オフイーリア役は知恵遅れの設定で、下半身オムツ姿。父の49日も過ぎないのに叔父と母親は婚約する。

 ゴッドスワンプの老人を慰問して役者たちがやってくる。彼らが繰り広げる芝居は芝居と言うより、見世物である。ガマ男、蛇女、大あご男、いざリの少年らを見世物にして、彼らを戦わせるのである。ここでまた、本水を使っての大乱闘劇がある。そこへコ・バヤシ少年のハムバットが登場し、金属バットで彼らを次々と殺していく。

 土方少年の表層の姿コ・バヤシ少年=ハムバットは自分の殺人を正当化する正義の人である。父を殺された復讐が殺人を駆り立てたのだという自己弁護の正義である。しかし、アケ・チチコ国選弁護人は土方少年の深層の真実を暴きだす。神沼で父を沈めたのは、他ならぬ土方少年その人である。目撃者もいる。そして罪のない少女(オフイーリア役)を神沼に沈めて殺したのも、彼である。役者達の座長とその息子、いざりの少年を殺したのも彼である。今や法廷と変じた洞窟の場で、アケ・チチコは弁護人の立場でありながら、死んでいった人たちの気持を理解してもらうためにも、被弁護人土方少年の死刑を求刑する。

 この劇の構造を理解するには、時間が必要である。舞台装置を含めて、深遠な仕掛けで大いなる謎解きが仕組まれているような気がする。国選弁護人アケ・チチコが、『ハムレット』のホレイショーに相当するのが感じられる巧妙な人物設定もその一つである。

(オルガンヴィトー第13回公演、作・演出・美術/不二稿京、新宿・全労済スペース/ゼロにて、 2月23日観劇)

 

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