高木登 観劇日記
 
  グローブ座カンパニー公演 『ヴェニスの商人』 No.2002-017

〜グローブ座さよなら公演・子供のためのシェイクスピア・シリーズ第8回〜

 95年に始まった子供のためのシェイクスピア・シリーズもこの夏で8回目を迎えた。僕は第1回目の『ロミオとジュリエット』を除いてそれ以後全部観てきた。今回はこの7月で東京グローブ座が閉館するというので、グローブ座としては最後の舞台となる。その感慨の方が先に立つ観劇だった。

 このグローブ座カンパニーの『ヴェニスの商人』は、6月30日の山形公演に始まって、東京グローブ座を含めて全国23カ所で、8月30日、三重県津市の千秋楽公演まで合計40回の長丁場である。

 子供のためのシェイクスピアとは言いながらも、質の高い演技だけでなく、思いきりのいい構成・演出でも観るべきものが多かったこのシリーズも、東京グローブ座という<場>があって、はじめて意義あるように思われるのだが、その存在基盤が失われてしまうことに、やり場のない憤りのようなものを感じる。

 今回はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる『ヴェニスの商人』と競演のような形となって上演されるので、それなりの期待と楽しみがあったが、質量の差があるのは否めないものの、これは目線を変えてみるべきだろう。

 とは言いながらも、今回期待した女性によるシャイロック、伊沢磨紀のシャイロックは期待のレベルには至らなかった。失礼な言い方だが、「おばさん」が見えてしまう。個人的には伊沢磨紀という女優は、その演技は嫌いではないのだが、今回については僕の期待はずれであった。

 伊沢磨紀だけでなく、今回はバッサーニオの明楽哲典、アントーニオの戸谷昌宏など常連の演技もノリがよくなかった気がする。全体的にたがの緩んだ緊張感にかけるものだったのは僕だけの印象だろうか?ランスロット・ゴボーには赤鼻を付けた道化役として彩乃木崇之が演じたが、この場面では老ゴーボーとの親子の対面の場面が省略されていたのは物足りない気がした。

 構成の面白さとしては、第5幕の月夜の場面を冒頭に持ってきて、台詞をシェイクスピアの作品の登場人物に置き換えたことである。

<きっとこんな夜だった、仇同士の家のロミオとジュリエットが愛の絆で固く結ばれ、二度と戻らぬ冷たい二つの命となったのは。

<きっとこんな夜だった、嵐にあって離れ離れになった双子の兄セバスチャンとその妹ヴァイオラが生きて再び巡り会えたのは。

 とこんなふうに、リア王、フォールスタッフ、オセロ、リチャード二世の挿話と続いていく。

 冒頭のこの意外性が気持を惹きつけるのだが、残念ながらその後のテンポのノリが悪く、前半は随分眠気を誘う。
東京グローブ座が閉館された後も、引き続きこの企画は是非続けてもらいたいと願っている。

 劇場には、アカデミック・シェイクスピア・カンパニーの鈴木麻矢さんが来ておられたのを目にしたので、挨拶の言葉を交わした。11月には、菊地一浩のオセロ、彩乃木崇之のイアーゴでASC公演の『オセロ』がある。

(訳/小田島雄志、構成/田中浩司、演出/山崎清介、7月21日(日)昼、東京グローブ座にて観劇)

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