高木登 観劇日記
 
 SET斬新活喜歌劇 『恋の骨折り損』 No.2002-005 

〜『恋の骨折り損』はミュージカルがお似合い〜 

東京芸術劇場ミュージカル月間に、スーパー・エキセントリック・シアター(SET) がシェイクスピアの『恋の骨折り損』を担いで参加。SETはミュージカル・アクション・コメデイを旗印に、三宅祐司を座長に活躍する劇団。

ケネス・ブラナーのミュージカル映画『恋の骨折り損』を意識して、時代設定も第1次世界大戦の後、ドイツのナチスが台頭し始めた不穏な状況の1930年代後半に置いている。幕切れも映画と同じく、フランスからの使者がナチス侵攻の知らせを王女に伝え、時代は第2次世界大戦へと突入していく。4組の恋人たちの運命は時代の波に呑み込まれたまま不明。映画ではこの4組のカップルの運命がセピア色のフイルムで映し出すという趣向であったと思うが、舞台ではそんな暗い空気を、元気な踊りと歌で吹き飛ばすことで未来への夢へとつなぐのは、現在の時代性をあえて意識して、せめて舞台の上ぐらいは希望を、という趣向でもある。

ナバール王国の国王ファーデイナンドと彼に仕える3人の貴族たちの学問精進と女人禁制の誓いは、フランス国王女と、彼女に仕える貴婦人たちの愛を得るために守らねばならなくなる誓いの序曲に過ぎない。女人禁制の誓いを守る対象が具体的に存在していないときには、観念的には容易な誓いも、恋の対象が現れたときには無意味な誓いでしかなかったことに気付く。しかし、本当の愛を勝ち得るためには「待つ」ことを強いられ、その「待つ」ことを実践することは、実は彼らが最初に交わした誓い、学問精進と女人禁制を守ることに他ならない。その意味においては、この劇は循環性をもっている。

今年1月の板橋演劇センターによる公演『恋の骨折り損』でも、教師ホロファニーズは女優のおぎゅうようこが演じてなかなかの好演であったが、映画でも女優であるジェラルデイン・マキューアンが演じているが、SETでも女優の子島麻衣子が演じている。このあたりもケネス・バラナーを意識してかどうかは分からないが、ホロファニーズを女優でもってくるというのは、どうもその方が面白いようである。

シェイクスピアという古典の解釈に縛られずに、のびやかな現代的仕立てなので、肩肘張らずにおもしろ楽しく観られるミュージカル・コメデイとなっている。そしてSETの持ち味とも言うべき活劇の斬新さが加わって、テンポもよく笑いも取るので退屈しない。

愛を勝ち取るには金が必要だと言うのを説明するのに、ロザラインは、劇中劇よろしく、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』を他の貴婦人たちを指示して演じさせるのも一興のお遊びであった。

SETの『恋の骨折り損』を観て、この劇は本当にミュージカルにお似合いだとつくづく感じた。映画のミュージカルとは違った面白さと良さを楽しんだ。

(翻訳/小田島雄志、演出/八木橋修、東京芸術劇場・中ホール、2月24日観劇)


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