高木登 観劇日記
 
 劇団NLT公演 「くたばれハムレット」 No.2001-26

〜嫌いも好きのうち〜

「ハムレット」を喜劇にしたらどうなるか?
「くたばれハムレット」の原題は I HateHamlet つまり、「ハムレットなんか嫌いだ」の意味だが、松岡和子の「くたばれハムレット」は実にうまい訳だと感心する。
役者であれば誰もが一度はハムレットを演じてみたくもなるのが一般的だろう。だが、それが茶の間の人気俳優の場合だったらどうなるだろう?!しかも舞台の経験が殆どない場合だったら。ハムレットに挑戦してみたい気持と、やり損じたときに人気俳優としてのイメージをぶち壊すことになる心配を抱え込むことになるだろう。ましてやギャラのいい仕事が選択肢にある場合、その役者はどっちを取るだろうか?まさにハムレットの心境となるであろう。
「くたばれハムレット」はそれを描いた劇である。そしてその仕掛けに、アメリカきってのハムレット俳優として歴史に残るジョン・バリモアの亡霊をきっかけにした、喜劇仕立てのしゃれた芝居である。 
ジョン・バリモアは1922年、40歳のときハムレットで大成功を収め、アメリカ公演で101回、3年後にはロンドンのヘイマーケット劇場でも上演し好評を得たが、その後映画に出演し、晩年はアル中の症状でひっそりと世を去ったアメリカ演劇界の伝説的スターである。
物語は、ロスの人気テレビ俳優アンドリュー・ラリー(池田俊彦)がニューヨークにやってきて、不動産屋のフェリシア・ダンテイン(泉関奈津子)の斡旋で、バリモアが住んでいたというアパートの部屋に引っ越してきたところから始まる(これにはいわくがあり、この劇の作者ポール・ラドニックが、実際にこのバリモアの住んでいたアパートに住むことになり、それがきっかけで「くたばれハムレット」は書かれた)。
テレビ俳優のアンドリューは大学で4年、それに演劇学校で2年演劇をやっただけで舞台の経験がない。それがアンドリューのマネージャーであるリリアン・トロイ(目黒幸子)の勧めで、セントラル・パークの野外劇場でのシェイクスピア・フェステイバルのオーデイションを受けて、見事ハムレットの役を得る。
そこへロスの友人のテレビ・プロデユーサーが金になる新番組の主役の話を持ってくる。アンドリューはどちらを取るかハムレット同様に悩む。そんなアンドリューの前に現れるのがバリモアの亡霊。バリモアの亡霊はフェリシアの降麗術がきっかけで現れるが、若い女性にはその姿が見えない。
バリモアの亡霊はアンドリューにハムレットをやれ、と命じる。アンドリューは亡霊に反発して、ハムレットの役を降りると言い出すが、いつの間にか亡霊の口車に乗せられて、意志とは反対にハムレットをやることになってしまう。
川端慎二が演じるバリモアの亡霊(貴公子としてのハムレットの衣裳を着込んでいる)が、この劇の喜劇的味わいをよく出していて、観ていて楽しくなる。
アンドリューのハムレットの出来は惨めなものに終わったが、バリモアとの触れあいで金銭や名誉だけでは得られないものを得ることが出来たことを感じさせる。
この劇はなによりも、バリモアへのオマージュであることを感じさせる。そして演劇讃歌の劇でもある。

作/ポール・ラドニック、翻訳/松岡和子、演出/北澤秀人、美術/松野潤、俳優座劇場にて、
10月28日(日)昼観劇

劇団NLTとは Neo Literature Theatre(「新文学座」ぐらいの意)の省略。

 

 

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