高木登 観劇日記
 
 リチウム第4回公演 「パック探偵団」 N0.2001-27

〜「夏の夜の夢」を遊ぶ〜

<劇団東京乾電池>の若手集団<リチウム>が、今年の年末から来年の年始めにかけて上演される東京乾電池25周年記念公演「夏の夜の夢」の露払いに、その翻案劇「パック探偵団」を公演。

時と場所は、現代のどこでもないどこか。強いて言えば、アテネ的アメリカ的関日本の関西風な架空の都市。この劇ではアテネを英語読みでアセンズと発音し、登場人物の背景からそのように想像することが出来る。

口上に劇中フェアリー探偵社のオーナー、オーベロン役を演じる木村卓矢(木村拓哉を意識して何度も本名キムラタクヤと繰り返す)が、この劇の主人公役であるパック(伊東悦子)を紹介する。このパックは何が不満か、ふてくされた表情で、ぶっきらぼうな挨拶でプロローグにエピローグの口上を、手にした分厚い書物から読み上げる。

フェアリー探偵社にアセンズ新聞社社主のネダー夫人が訪ねてきて、娘ヘレナが恋煩いしている相手を探り出して、その恋の成就をさせるよう依頼する。恋愛をぶち壊すのは簡単だが、恋の成就となると難しいとオーベロンは渋るが、ネダー夫人が差し出す礼金の大金に目が眩みその仕事を引き受ける。

フェアリー探偵社の社員でオーベロンの部下が、パック。オーベロンは早速パックにその任務を押しつける。パックは探偵社の社員というより、路上のいたずらガキ大将といった風貌であるし、またそのような役割である。パックは、路上の悪ガキや、知的障害児、それに学校へも行かず30年間ずっと家に閉じこもっていた44歳の男(パックによってクモノスと命名される)などを寄せ集めた探偵団を結成している。

このパック探偵団のメンバーは「夏の夜の夢」の妖精達の名前を渾名に付けられていて、それぞれモスラ、マメゾウ、メンタイ、レンコン、そしてクモノスと呼ばれている。また、パック探偵団は、妖精の役とともにアテネの職人達の役割も担っている。町の祭りの行事で劇のコンテストがあり、そのコンテストに参加すべく、マメゾウの指揮の元にコントを練習している。これが関西風漫才、ボケとツッコミのコメデイ。

「夏の夜の夢」の主筋、ハーミアとライサンダー、ヘレナとデミートリアスの恋の三角関係はデフォルメされる。ハーミアは厚生大臣の娘、恋人ライサンダーは医科大のさえない学生。ハーミアの方が積極的にライサンダーにモーションをかけてきて、二人の駆け落ちを持ちかける。二人の駆け落ちを教えてもらったヘレナは、恋するデミートリアスにその秘密を教える。ハーミアとヘレナの駆け落ち場所は、海辺のホテル。そこへ押し掛けたデミートリアスとヘレナの4人揃ったところへ、パック探偵団がやってきて、部屋に眠り薬の入った空気を送り込んで4人を眠らせ、インターネットで入手した恋の媚薬をライサンダーとデミートリアスに振りかける。その後は「夏の夜の夢」の物語通りの展開。

さて、そのもつれた関係の修復に再度ぬった恋の媚薬が、その効き目が相手を誤らないよう正しい関係の状態にして、4人を縛り上げてホテルに監禁し、その鍵をネダー夫人あてに郵送する。ところが郵便ストでこの手紙が届かず、4日間も家に帰ってこないヘレナを心配したネダー夫人がオーベロンを訪ねてくる。ネダー夫人がパックのいる前でオーベロンに詰問した2千万の報酬前金のことを知ったパックは、自分がもらった報酬がわずか百万だと分かって、オーベロンに復讐を謀る。オーベロンの趣味はロリコンで、未成年の少女と関係することで、中年女性には全く興味がない、というより恐怖心を抱いている。そのオーベロンにロバの縫いぐるみを頭に被らせ、恋の媚薬をネダー夫人に振りかける。ネダー夫人はロバの頭のオーベロンにすっかり夢中となり、ものすごいモーションで恐れおののくオーベロンをベッドへと襲う。

ホテルに監禁された4人は発見され、鎖骨をはずされ錯乱状態となったオーベロンも発見され、その仕業がパック探偵団であることがばれる恐れがあるということで、劇のコンテストで優勝した声を聞かないまま、少年達は逃亡の旅に出るところで、この劇もチョン。

パック探偵団の登場人物の演技はむしろ稚拙、その稚拙さがユーモアとして武器となった面白さ。

(構成・演出/ヘンリー・ヤマト六世、11月1日(木)夜、下北沢・OFF・OFFシアターにて観劇)

 

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