高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   オペラシアターこんにゃく座公演 オペラ『十二夜』         No. 2002_023

〜 コーラスを演じるおとこおんな道化4人 〜

 1989年2月に初演されたこの作品は、日本における最初の本格的シェイクスピア・オペラで、その後『ハムレットの時間』(1990年)、『夏の世の夢』(1996年)のシェイクスピア・オペラ三部作に続くことになる最初の作品ともなった。いずれも座付作曲家である林光と萩京子の共同作品である。
 この度の公演は再演とは言わず、改訂版初演と銘打っている。その理由として、萩京子と林光が対談で、「配役も変わり、新演出でもあるので」、「配役が変わったことによって、音域の処理も含めて、部分的に書き直すというのが少しあります」と語っている。
 演出家の加藤直も「今回の作品を再演とは思っていない」と語っており、今回の演出にあたっての新しいコンセプトとして「不在」をテーマにしたと言う。ヴァイオラが男に扮したシザーリオという人物はどこにも存在しない「不在のひと」である。その不在のシザーリオを通して、実体のない愛・夢を追う物語を、姿カタチのない音楽・オペラで綴る。いうなれば「夢物語」。
 そして今回の新しい試みが、「4人のおとこおんな道化」。両性持っている存在。それを具象化したのが衣装。右を向けば男、左を向くと女というように、半分ずつに仕切っている。おとこおんな道化は劇の進行役も務めているので、コーラスの役目もしている。道化というより、コーラスとしての存在感が強い。そしてこのコーラスの存在がもう一つのモチーフである劇の祝祭性を強めている。
 今回の登場人物で異彩を放っているのが、竹田恵子扮するマライア。原作にある、「美しいお転婆さん」、「悪知恵の魔女」、「女大将軍」、「コマネズミみたいな小間使い」、「ミソサザイのみそっかす」と命名されるそのすべてを表現しきっている。痛快なほどの小気味よさ。
 サー・トービーの大月秀幸とサー・アンドルーの佐藤敏之は、腹に詰め物をしての太鼓腹で登場。ちょっぴり小型のフォルスタッフというイメージもちょっと変わって面白かった。
 本来の道化であるフェステが、おとこおんな道化の存在もあって、道化であるより哲学的な存在として強く感じた。フェステをみるとき、この劇が「大人の喜劇」という印象を強くする。『十二夜』はシェイクスピア最後の喜劇であるが、その完成度と成熟度においても、シェイクスピア喜劇の中でも最も優れた作品といえるだろう。
 前半はオペラを観るというより、シェイクスピアを聞く姿勢の方が強く働いて、気持ちが伸びきってしまって半分眠りかけてしまったが、後半は本来の面白さを十分味わせてもらった。


 
台本・作曲/林光+萩京子、演出/加藤直、美術/島次郎
9月23日(月)昼、俳優座劇場



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