高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   パパ・タラフマラ公演 『Birds on Board』            No. 2002_016

〜 Happy Birthday, Hamlet 〜

 公演案内の『ハムレット』の文字だけにつられて予約したのだが、この劇の観劇当日まで、この作品がパフォーマンス・アーツということすら知らなかった。
 <パパ・タラフマラって何?>だが、公演のチラシによると、<舞台芸術でありながら、どのジャンルにも属さない稀有のビジュアルシアターカンパニー。独特な時間の流れ、また空間性がその作品の中に生きている>。
 また、次回('02年9月)新国立劇場(小劇場)で上演される新作『未来の空隙が響き』のチラシには、<小池博史が率いるパパ・タラフマラが創出する異色名舞台は、日本のみならず世界からも注目を集めている。舞踊・演劇・美術・音楽というジャンルを超越し、パフォーマンスを新たな次元へと導く。パパ・タラフマラは結成20年を迎える>とあり、小池博史については、<一橋大学社会学部卒。TVデイレクターとして多数のドキュメンタリーを制作する。1982年、パパ・タラフマラを設立し、以後全作品の作・構成・演出を手がける。'96年よりつくば市芸術監督を務めている。主な作品:『ブッシュ・オブ・ゴースト』『パレード』『青』『城〜マクベス』『船を見る』『島〜ISLAND』『春昼』『WD』など>。
 この『Birds on Board』は、長年小池博史が舞台化したいと思っていたシェイクスピアの『ハムレット』をモチーフにした作品である。タイトルの『Birds on Board』とは、日本語にすれば「船上の鳥」ということになるが、これは小池の原体験である海のイメージと、日韓によるコラボレーションということで、二つの国を隔てる海(具体的には玄界灘)から派生したものであるという。
 パフォーマンス・アーツということで、ほとんど台詞らしい台詞がないが、唯一まとまった台詞が例の有名なハムレットの独白'To be, or not to be'の箇所である。ところがこのハムレットを演じるのが韓国のミュージカル俳優オ・マンソで、台詞はこの'To be, or not to be, that is the question'のみが英語であとはすべて韓国語で発せられる。初日の前夜はこの台詞が日本語でやられたそうであるが、僕にはこの韓国語での台詞が、感覚的に意味を超えて理解でき、非常によかったと思える。
 小池博史はシェイクスピアの『ハムレット』は理屈の上で理解を超えた作品であると言い、悲劇であると同時に喜劇であるとも断じている。それが、ブラック・コメデイとしてこの作品に表現されているようにみえる。
 このような舞台を見るのはなにしろ初めてでもあり、まず新鮮な驚きが先にたって、それについていくのがやっとという感じで、見終えてみて感動の満足感が後ろから走ってきた、という印象である。
 「音」と「映像」の魔術的効果、大道具・小道具の多用も興味を煽った。

 

作・演出・振付/小池博史、美術/田中真聡・小池博史
6月21日(金)夜、世田谷パブリックシアター


>> 目次へ