高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   劇団東演第116回公演、ミュージカル 『恋でいっぱいの森』     No. 2001_017

〜 『夏の夜の夢』、『から騒ぎ』、『お気に召すまま』 〜

 劇団東演は、創立されて42年という。座長笹山栄一は、芸歴50年、今年古希を迎える。そして、この劇団にはその古希を迎えた団員が笹山の他にあと2名いるということである。
 だがこの劇団、決して年輩者ばかりの黴の生えたような古臭い連中ばかりでなっているわけではない。芝居好きな若い団員で活気に満ちた劇団であるように見える。
 その劇団東演の活躍の場は、この23年間下北沢の鎌倉街道に沿った住宅街の一角にある東演パラータで続けられている。下北沢といえば、本多劇場をはじめとして、小・中劇場のメッカともいうべきところだが、この東演パラータは、その一角からはずっと離れた場所で、こんな所に劇場が、というような場所にある。
 今回は初めてでもあり、また自由席ということもあって、場所探しの時間と、いい席を取りたいということで開演より1時間前に着いた。
 この劇団については、チラシを見るまでは不勉強で全く知らなかったのだが、この『恋でいっぱいの森』が、シェイクスピアの『夏の夜の夢』、『から騒ぎ』、『お気に召すまま』の3本を一緒にしたミュージカル、それも福田善之台本・演出ということで、大いに食指を動かされた。
 この劇団については、この劇『恋でいっぱいの森』のプロローグで、オーベロン役を務める座長笹山栄一の口上で知ることが出来た。その口上を聞いていると、本当に芝居を愛しているという気持が伝わってきた。
 今回の『恋でいっぱいの森』はミュージカルだが、この劇団はもともとストレート・プレイを専門としていて、ミュージカルを本格的に取り組むのはこれが初めてとのことである。
確かにその点では、全員が歌も踊りもうまいというわけではない。しかし、それを越えた楽しい劇であった。
 第一部1場は『夏の夜の夢』、ハーミアとライサンダーが駆け落ちする相談のところから始まる。そしてハーミアに横恋慕するデミートリアス、そのデミートリアスに片思いのヘレナを合わせた4人が、 アテネの校外の森で、妖精パックのいたずらから繰り広げられる恋のドタバタ劇。
 第一部の2場は『から騒ぎ』。ここでは何と言っても、ベネデイックとベアトリスの機知の競演と、二人が恋の罠にはまるところが見せ場である。なんとこのキャステイング、ベネデイックに60歳を越している(と思うのだが)小高三良を配している。ベアトリスの河野あや子は20代(?)と若い。歌も踊りもうまいとは言えない小高三良が実に溌剌と若い演技をするのがみもの。恋人役が若いから、余計にはりきっちゃうのかも。『から騒ぎ』は、ヒーローが悪巧みのためにクローデイオとの結婚が破談になり、失神する場面(公けにはここで、ヒーローは死んだことにされる)で第一部終了し休憩となる。
 第二部の3場は『お気に召すまま』で始まるので、『から騒ぎ』の結末が中途半端で落ち着かない気持にさせられるが、この3つ劇の最後は、<結婚>という大円団で締めくられる共通点を持っており、そこで無事めでたくそれぞれが幕を閉じることになる。
 『お気に召すまま』は、アーデンの森を舞台に、ロザリンドを愛するオーランド―と、男装してギャニミードと名乗るロザリンドとの恋愛ごっこを中心に繰り広げられ、伏線に羊飼いのシルヴィアスと羊飼いの娘フィービーの求愛騒動がある。フィービーは男装したロザリンドに一目惚れするが、結末の大円団でしぶしぶシルヴィアスと結婚することになり、この劇全体が、それぞれ二組ずつのカップルが生まれて、めでたく幕を閉じる。
 この劇全体の演技で光っていたのは、妖精パックの久瀬新子。その軽やかな動きで演技賞。そして、ベネデイックの小高三良は年より若い好演賞。


感激度:★★ 感激寸評:終わりよければすべて良し、楽しく拝見!

 

台本・詞・演出/福田善之、7月7日、下北沢・東演パラータ


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