高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー公演 『リチャード三世』   No. 2001_012

〜 RSCによるミレニアム記念公演、"This England" 〜

 ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)としても初の挑戦、英国の百年戦争を舞台にしたシェイクスピアの歴史劇8本を、時代順に一挙上演するという試みがこの春にロンドンでなされている。
 そのうちの『ヘンリー六世』三部作と『リチャード三世』の4本がヤング・ヴィック劇場で、マイケル・ボイド演出で5月26日まで上演されている。
 ロンドンに在住している鈴木真理さんに、今回のイギリス出張に合わせて『リチャード三世』の切符の手配をしていただいた。その鈴木真理さんにヤング・ヴィックの道案内までしていただいた。
 ヤング・ヴィックは地下鉄のウォータールー駅から歩いて5分ほどの所にある。
 劇場内はペンタゴンの形状をしており、舞台はそのペンタゴンの一辺を奥舞台にして、残りの両脇の各二辺にある客席からはさまれた格好で舞台が客席の中央まで花道のようにして延びている。
 観客は舞台を主面と両サイドの三方から見る形で、演技者は全方位から見られる構造となっている。
 劇場自体がこじんまりとしているので舞台との距離も短く、躍動的な臨場感にあふれる演技を楽しむことができる。
 エイダン・マッカドル(Aidan MacArdle)が演じるリチャード三世は、これまで日本で観てきたリチャード三世とは一味違う感想を持った。
 背中に瘤をもっているが、その様相は極端な異形ではなく、醜悪さを感じさせない。頬から顎までぼうぼうに生やした髭面がバタ臭ささへ臭わせていた。
 徹底的な悪人を演じながら、その悪を楽しむという点において、どこか愛嬌をすら感じさせたが、それは一つには舞台に遊びがあるからでもあろう。
 バッキンガム公がロンドン市長を伴ってきて、リチャードに王位に就くことを懇願する場面では、客席の観客が市民となって「イングランド国王、リチャード万歳!」と唱和する(させられる)が、そのタイミングが実にうまく、歌舞伎の屋号の呼びかけと同じように観客も慣れているように思われた。
 リチャードはその声を二階のバルコニー席で受け、感謝の言葉を言いながらも、観客(=市民)に向かって、「あっかんべー」をやったところで休憩に入る。
 例の「馬を!俺の王国をくれてやるから馬をくれ!」の場面では、リチャードは人馬にまたがってリッチモンドの軍と戦闘を交わす。
 弓の激しく飛び交う音がして、人馬は崩れ、リチャードは放り出される。そこで、'A horse! A horse! My kingdom for a horse!'と叫ぶ。この台詞は、絶望し切れない悲痛さの悲喜劇とも言うべきものであったが、馬一頭あったところで何になろう、それを王国と取り換えるというのだから。
 ヤング・ヴィックでは、観客と一体となった雰囲気がとても素晴らしかった。

 

マイケル・ボイド演出
5月7日(月)19時30分開演、ロンドンのヤング・ヴィック劇場、
チケット:22ポンド、座席:Main House

 追 記
 RSCによる百年戦争歴史劇は時代順に3つの劇場で上演されている。
 ・『リチャード二世』(スティーヴン・ピムロット演出で、4月17日までピット・シアター)
 ・『ヘンリー四世』二部作(マイケル・アッテンボロー演出)と『ヘンリー五世』
  (エドワード・ホール演出)、4月21日までバービカン・シアターにて。
 ・『ヘンリー六世』三部作と『リチャード三世』
  (マイケル・ボイド演出で、5月26日まで、ヤング・ヴィック劇場にて)

 

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