高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   劇団鳥獣戯画・第63回公演 『真夏の夜の夢』           No. 2001_011

〜 シェイクスピアも歌って踊り出す歌舞伎ミュージカル 〜

 とにかく面白い。メタメタに面白い。これまでにも面白いシェイクスピアはいろいろ観てきたが、鳥獣戯画の『真夏の夜の夢』はひときわ楽しくて、面白い。
 ピーター・ミルワード教授はその著書『シェイクスピアと日本人』のなかで、日本で人気のシェイクスピア演劇としてこの『夏の夜の夢』をあげて、その理由について次のように分析している。
 その第一としてこの戯曲がとても空想的であること、次にボトムをはじめとするアテネの職人たちの素朴で、単純で粗削りなユーモア、最後にアテネの恋人たちの本筋を支えるロマンティックな愛のテーマということをあげている。
 鳥獣戯画の『真夏の夜の夢』も多分に空想的で、ハチャメチャなファンタジーの世界である。
 時代を江戸時代に設定し、「昼の世界」のシーシュース公爵は"殿さま"、ヒポリタは"手折花姫"、イジーアスは"家老"、ハーミアとライサンダーは"お宮"と"雷蔵"、ヘレナとディミートリアスは"お八重"と"竜之介"、アテネの職人たちは長屋の"大家"、長屋の店子たちは"お種"と"熊八"夫婦、"師匠"、"浪人"といった具合に翻案される。
 そして「夜の世界」あるいは「森の世界」では、殿さまは"山の神"、手折花姫は"竜田姫"、家老は妖精パックの"あまんじゃく"、大家をはじめとする長屋の店子たちは、それぞれ"河童"、"山姥"、"かわうそ"、"九尾の狐"、"天狗"へと変身し、4人の恋人たちも、妖精の"蜘蛛の精"、"蜻蛉の精"、"蛾の精"、"木の精"へと変貌する。
 話の本筋としての殿さまと4人の若者たちの恋、愛のテーマが劇の縦糸としてしっかり走っていて、翻案劇でありながらその本質は踏襲され、その骨格はシェイクスピアに忠実である。
 ファンタジックな荒唐無稽さは、「森の世界」ではじめて登場してくるときの"山の神"と"竜田姫"が5mを越す長身の姿で現れ、台車で運ばれてくる。
 あまりの大きさに、最前列に座っている自分は、舞台をはるかに見上げねばならず、首が痛くなるほどであった。
 "山の神"が"あまんじゃく"に"竜田姫"の目に「惚れ薬」の媚薬を振りかける命令を言いつける場面では、"山の神"はブランコに乗って登場し、"あまんじゃく""もブランコに乗ってその命令に答える。
 その恋の媚薬を、"あまんじゃく"は"竜田姫"と4人の恋人たちだけでなく、森の妖精たち(というより妖怪と言った方があたっている)全員にも振りかけてしまう。
そこで、てんやわんやの大騒動となる。
 「昼の世界」の大家は師匠を、師匠は浪人を、浪人はお種さんを、お種さんは大家を追っかけ回すことになる。
 「夜の世界」では、この恋のドタバタが逆回りの構造となり、大家の"河童"はお種さんの"山姥"を、"山姥"は浪人の"天狗"を、"天狗"は師匠の"九尾の狐"を、"九尾の狐"は"河童"を追いかけることになる。 
 熊八は"あまんじゃく"によってロバではなく、クマに変身させられ、竜田姫はそのクマに恋をする。
 "山の神"の命令で錯綜した恋のもつれは恋の媚薬のふりかけで元通りになるが、"竜田姫"の分は残されておらず、クマに恋したままである。が、"あまんじゃく"の計略で、クマは実は"山の神"の変装であったことが明かされる。
 そうして"山の神"と"竜田姫"の仲は元の鞘に納まってメデタシ、メデタシとなる。
 大家と店子たちによる劇中劇のタイトルは「ロミ十郎とジュリ姫の恋物語」として、熊八と師匠がヒーローとヒロインを演じ、大家は悪代官の役、お種はジュリ姫の乳母役、浪人は「月」の役を演じる。
しかし、劇の進行は脱線ばかりで、ついには見物のお殿さまの頭を打ちつけて、あわやお手打ち騒ぎとなる。
 ところがこれまで笑ったことのない手折花姫がついに笑い出し、大家と店子たちは一転、ご褒美にあずかることになるが、手折花姫の笑いは止まることを知らず、城が崩壊するまで笑い続け、舞台が暗転して「夜の世界」となる。
 「夜の世界」を徘徊するのは妖怪たち―「昼の世界」の住人たちの変貌の「けれん」である。
 最後に"あまんじゃく"が口上を述べ、ブランコに乗って空中へと高く上り、幕となる。
 普通ならここでカーテンコール、はい、おしまい、であるが、劇団鳥獣戯画の代表者である知念正文が挨拶の口上を述べた後に、次回公演の『H. P.』(Happy Prince)の予告編を演じ、フィナーレにはキャスト全員による歌と踊りの大サービスで、これぞ娯楽の醍醐味というものであった。甘露!甘露!!

 

脚本・演出・振付/知念正文、音楽/雨宮賢明、舞台美術/孫福剛久
4月28日(土)14時開演、下北沢本多劇場、座席:A列18番

 

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