俳優座の21世紀の幕開けはシェイクスピアで始まった。それも思いっきり趣を変えて、若手を中心にしたキャステイングで、テンポも軽快なミュージカル仕立て。
サー・トービー・ベルチ役の若尾哲平、マルヴォーリオ役の堀越大史のベテランを別にすれば、これからの21世紀の俳優座を担う新人・若手が元気に活躍。出演者のほぼ3分の2が20代であった。
俳優座が1993年にマイケル・ペニントン演出で上演した時は、中堅とベテランを中核にしたものであった。
その時のオーシーノ公爵に村上博、マルヴォーリオに中野誠也が演じた印象がいまだに強く残っている。
若手ではヴァイオラ役の広田亜矢子がみずみずしかった。
「音楽が恋する心の糧なら、もっと続けてくれ、思う存分味わわせてくれ。食べすぎて、胸につかえて、やがて食欲がなくなればよい。あの曲をもう一度!絶えいるような調べだった」というオーシーノ公爵の台詞が導入役を果たすかのように、『十二夜』は音楽的要素に満ちた作品である。村上博のオーシーノは、この冒頭の台詞を実にメランコリックにやって、その雰囲気が何とも言えない忘れがたい印象として残っている。
それに対して今回田中美央が演じたオーシーノ公爵は、男性的で強烈な個性を感じさせた。
道化のフェステは若い須田真魚が演じたが、若さの中にも老練な印象を与え、得意のヴァイオリンの生演奏でも楽しませてくれた。
舞台は夏祭りの舞台作りのようで、舞台奥いっぱいに足場組立が拡がる。その足場の裏側ではミュージカルの楽士たちの演奏がなされたり、足場そのものが演技にも活用される。
開演は、出演者一同がシェイクスピア当時の晴れ着の衣装でそろって登場し、挨拶する。口上はサー・トービー役の若尾哲平が務める。
開幕は原作の1幕と2場が入れ替わって、ヴァイオラが嵐の後、イリリアの海岸にたどり着き、船長との会話から始まる。船長の世話でオーシーノ公爵に仕える決心をしたところで、舞台は1場のオーシーノ公爵の恋の激白の場面へと戻る。
休憩なしの2時間の上演時間とはいえ、ミュージカル仕立てのため省略がかなりあった。
全体のテンポを考えればこの程度の省略は必要であろうが、ちょっと口惜しいところもある。
俳優座で小沢栄太郎が初めてこの『十二夜』を演出したのが、今から42年前の1959年のことだという。『十二夜』の演出の前、小沢はヨーロッパに芝居見物に出かけ、半年足らずの間に40本あまりの芝居を観たという。その時見たシェイクスピアの舞台の印象が、親しみやすい愉快な作家だと感じて、日本で上演する時、その事を念頭において台本を作り上げたという。その台本の元の翻訳が三神勲で、俳優座の『十二夜』の公演はそれ以来ずっと三神訳である。
そのシェイクスピアを面白くという精神が生かされて、愉快で、滑稽で、楽しくて、面白い舞台となって、今回生まれ変わってきた。そして、次代を担う若手による舞台ということで、これからの楽しみも大いに期待させてくれる舞台であった。
訳/三神勲、上演台本/佐竹修・上田亨、演出・美術/佐竹修、音楽/上田亨
1月14日(日)14時開演、俳優座劇場、チケット:5250円、座席:3列8番
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