高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   ウィリアム館公演 『ペリクリーズ』           No. 2000_21

日本ではこれまであまり上演されていない作品なので期待していたが、期待が裏目に出て前半部では欲求不満を感じ、休憩に入ったところで帰ってしまうかと思ったが、後半部では興に乗って盛り上がりを見せてくれたので、残っていてよかった。
灰の中から起き上がった古(いにしえ)の詩人ガワーによって、1幕ごとに物語の展開の概要が語られるが、前半の不満の第一が、この詩人ガワーにもあった。詩人の語りにしては粗雑な感じであった。
しかしながら、劇の後半では全体的にのりがあって、その粗雑さもあまり気にならなくなった。
『ペリクリーズ』は、場所も次々と移り、時も10数年の歳月が進行し、その進行の補助としてのプロローグ役が詩人のガワーである。
ガワーの語りの合間に黙劇のショーがあるのだが、これがあまり活かされていないのも気になった。
細かいところで結構気になったが、前半を終わったところで後ろの座席の人たちが話しているのを聞くともなしに聞いていると、筋はよく分からないけれど面白い劇だと言って結構楽しんでいる。劇の途中でよく笑ってもいた。
後半の盛り上がりは、何といってもミティリーニの女郎屋の女将(男優が女装)の好演と、女郎屋一団の歌と踊りで、それはちょっとしたミュージカル、ウェストサイド・ストーリーの感じであった。
この公演の目玉は、明治大学BIG SOUNDS SOCIETY Orch.を中心にしたBSAジャズバンドの生演奏と奥井奈緒子のボーカルだろう。軽音楽のリズムに乗って、歌と踊りが入ってくると思わず興に乗せられてしまう。
ウィリアム館の『ペリクリーズ』は、骨子としてはシェイクスピアに忠実に従っているが、シェイクスピアを遊ぶことで、この作品に何の知識もない観客にも面白く、楽しくさせていたように思う。
後半部が面白くなったのは、その遊びがリラックスしてきたせいもあるだろう。
演出の面白さとしては、ミティリーニの女郎屋で、ペリクリーズの娘マリーナが、太守のライシマカスに諌めの言葉を語るとき、女神ダイアナ(の役)がそっくりそのまま声を合わせて唱和すると、マリーナの声にエコーがかかったようになって、天からの声として聞こえたことだった。
演技、台詞の全体的な印象としては粗削りで、大きな声を出すときはやたらに大きな声で台詞が抜けていくような感じであったが、終わってみればそれも部分的な課題でしかなく、かえってこの劇団の持ち味としての輝きとみれば、長所とも取れるだろう。

(翻訳/小田島雄志、演出/小林勝也、制作/ウィリアム館、10月8日(日)18時開演、青山円形劇場にて。 チケット:3300円、全席自由席)

 

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