舞台から映画に主軸を移したかに見えるケネス・ブラナーが、大作『ハムレット』に続く作品として一般にはなじみの薄い『恋の骨折り損』を軽妙なミュージカルに仕立て上げた。
ナバール国王に仕える貴族で学友のビローンと、フランス王女に仕える貴婦人ロザラインの二人の丁々発止のやりとりは、同じケネス・ブラナー監督の映画『から騒ぎ』のベネディックとベアトリスの二人を思い出させる。
そのビローンにケネス・ブラナー、ロザラインにナターシャ・マケルホーンが演じる。
登場人物にビローンと勝るとも劣らぬ気を引く人物がいる。スペインの風変わりな騎士ドン・エドリアーノ・アーマードである。この人物は、どこかフォルスタッフを彷彿させるところがある。
映画は、時代設定を1930年代から1940年代へと移し、挿入される音楽もその当時のスタンダード・ナンバーから選曲されている。
各幕のはじめごとに、モノクロ画面のニュース映画が各場面の状況を説明するという趣向を凝らしており、一種のコーラスの変形とみなされる。
原作は4組のカップルが結婚でめでたしめでたしで終わるのではなく、フランス王の死去に伴って、12か月の間のお預けとなって、大円団で終わる喜劇の形態となっていない。
映画では時代設定をうまく生かして、結婚の阻害要因をフランス王の死去という出来事に加えて、第二次世界大戦の始まりと、フランスの陥落、そして解放という外的要因をはさんで、この4組のカップルの行く末について、定まりのないまま終わらせている。
原作の男性の学校教師ホロファニーを女性に変え、ブラナーとの仕事上の付き合いが長いジェラルディ・マキューアンが演じて、ナサニエル神父にちょっぴり色気を示すところなどは愛嬌であった。
現代版シェイクスピアとして、シェイクスピアになじみの薄い人にも理解しやすい仕上がりとなっているのではないかと思う。
ミュージカルとしての出来映えとしては今一つの感で、歌と踊りについてはお世辞にもうまいとは言えないが、軽妙でおしゃれなシェイクスピアを楽しむことができた。
(銀座シネスイッチにて、12月16日、初日封切りを見る)
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