高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
     シェイクスピア・シアター公演 『ジョン王』           No. 2000_020

 ニュープレイス公演第3弾は『ジョン王』。
 シェイクスピア・シアターの公演では7年ぶりで、パナソニック・グローブ座での公演以来である。
 歴史劇の中でも比較的地味な感じのする作品であるが、シェイクスピア・シアターならではの上演といえる。
 『ジョン王』は、読者よりも観客に、批評家よりも役者に愛好されてきたということであるが、イギリスではよく上演されてきたということであろう。18世紀には時の名優ギャリックがジョン王と私生児フィリップを演じている。18世紀末から19世紀初頭にかけては、シドンズ夫人がコンスタンスを繰り返し演じ、マクベス夫人と並んで夫人の終生の当たり役となった。19世紀がコンスタンスの時代とすれば、20世紀は私生児フィリップの時代といえる。(注1)
 シェイクスピア・シアターでは誰が主役を演じているであろうか。
7年前のキャストを振り返ってみると(もうすっかり忘れてしまっていたが、自分の想像は当たって)コンスタンスには吉沢希梨、私生児は吉田鋼太郎、ジョン王には松木良方が演じていた。
 今回の上演では、ジョン王が7年前と同じく松木良方、コンスタンスには久保田広子、私生児を杉本政志が演じている。
 キャスティングを気にしているのは、7年前と較べて現在のシェイクスピア・シアターのメンバーがガラリと入れ替わっているからである。
 ニュープレイスが完成してからも、これからという中堅が退団しており、今年になってからも劇団の看板であった吉沢希梨が退団し、円道一弥も去っていた。
 しかしながら、そんな心配事も杞憂に終わって実に見応えのある演技を見せてくれたのは何よりの喜びであった。
 要(かなめ)のジョン王の松木良方はベテランらしい落ち着いた深みのある演技だし、コンスタンスの久保田広子も吉沢希梨を彷彿させる迫真の演技であった。そして何よりもよかったのは、私生児を演じた杉本政志であった。
 キャラクターとしてのジョン王はリチャード三世のようなあくの強さもなく、悪に徹するでもなく、どことなく中途半端な人物で面白みに欠け、私生児フィリップも『リア王』の庶子エドマンドのような悪徳の魅力を持つわけでもない。
 日本人の好みには今一つピリッとしたものに欠ける作品といえるが、それはやはり読者の立場からであった。
 今回この上演を観て、読むより観るもので、役者に愛好される作品であるというのを身をもって感じた。
 ジョン王にしても、コンスタンスにしても、私生児にしても、役者の腕の振るいどころに満ちているのであろう。
 23期生の橋倉靖彦(ヒューバート)、24期生の新人、中山泰成(フランス王)、戸田直寛(皇太子ルイ)もしっかり成長して台詞も相当堂々としてきた。これからが楽しみである。
 皇太后エリーナを演じた真城千都世は新人であろうか、それとも客演?
 ニュープレイスのオープニング公演以来、シェイクスピア・シアターでは「シェイクスピア通信」を発行しているが、劇団員の紹介と消息を是非載せて欲しいものである。吉沢希梨、円道一弥の退団も劇団員に確認して初めて知ったような次第である。
 キャストの紹介も、従来のように客演の場合、その旨明記してくれるとありがたい。

 訳/小田島雄志、演出/出口典雄、9月23日(土)14時、高円寺ニュープレイスにて観劇。
チケット:3500円、座席:7番ヘレナの席

 (注1)小田島雄志・シェイクスピア全集『ジョン王』(白水社刊、Uブックス)・上の美子解説<上演史>より。 

 

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