高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   ロマンチックコメディ 『お気に召すまま』            No. 1999-014
空白

 エプロンステージの中央に、白い丸テーブル。
 その上に真っ赤なリンゴが8個。
 8人で演じる『お気に召すまま』を象徴するようで、そのリンゴが印象的である。
 背景には、宮廷を思わせる白い円柱が四方に舞台全体のブルーの色調の中でまぶしく浮かび上がっている。
 その内の1本は「時」を表象する大きな砂時計となっていて、砂が時間を流し続けている。
 開演と同時に、8人の役者が一斉にテーブルの周りに集合し、一人一人がテーブルの上のリンゴを取って勢いよく齧ったところで暗転、そして舞台はオリヴァーの邸となる。
 宮崎真子演出、中越司による美術は、宮廷の生活、あるいは都会の生活は、陰謀に富み、不安定さを象徴するように、暗いブルーの色調で表現している。
 アーデンの森の場面になると、舞台は一転して白に覆われる。
 大地も背景もみな白で、森を表象する緑の木々が明るく、森は桃源郷のように理想化されている。
森を通過することで心が浄化される。
 オーランド―の兄が心を改めるのもアーデンの森であり、兄の公爵を追放したフレデリック公爵もアーデンの森で隠者と出会って悔い改める。
 白い色は、その浄化の表象であると言える。
 8人で演じる『お気に召すまま』には、この8人が最後にはめでたく結ばれる4組のカップルとなるという一つの意味が含有されている。
 ロザリンドとオーランド―、シーリアとオリヴァー、道化のタッチストーンと田舎娘のオードリー、そして羊飼いの娘シルヴィアスとフィービーの大円団である。
 8人で演ずることで、当然ながら一人複数の配役となる。
 一番の見ものは、老僕アダム、フレデリック公爵の娘シーリア、厭世家のジェイクイーズの一人3役の松金よね子、二人が同時に出演する場では、衣裳を素早く裏返しての早変わりで笑わせてくれる。
 この舞台はこの松金よね子が出演するということで何が何でも観てやろうと思ってチケット販売開始の日に‘ぴあ’で申し込んだのだが当日で売り切れ、やむなく直接劇場に申し込み、かろうじて希望日の最後列のチケットを入手できた。
 その苦労も報われてお目当ての松金よね子の演技も楽しんだが、全員がそれぞれに特徴のある個性派で、それがぶつかって生じるエネルギー、パワーを存分に満喫した。
 ロザリンドを演じる高嶺ふぶき、オーランドの剣幸、この二人の元宝塚が舞台全体を華やかなものにした。
 脇を固めるたかお鷹、深沢敦、阿知波悟美、大富士、安原義人など、シェイクスピアでは舞台に立って台詞を言っている人物が主役であるというのを地でいっており、シェイクスピアの台詞を演じる彼らが十分に楽しんでいる。
 めでたく4組のカップルが結ばれた大円団の後、再び白い丸いテーブルの上に8個のリンゴ。
 それを全員が一斉に齧ったところでストップモーション。
 これはこの劇が円環構造に仕立てられているのを表しているといえる。
 幕が下りたところでロザリンドが登場し、エピローグの口上を述べ、この口上が観客の心をくすぐり、惜しみない拍手を呼んだ。

(翻訳・演出/宮崎真子、99年6月25日(土)13時開演、博品館劇場にて観劇、
チケット:7000円、座席:R列4番)

 

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