高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   シェイクスピア・シアター25周年記念公演 『夏の夜の夢』   No. 1999-010
空白

シェイクスピア・シアターの『夏の夜の夢』には3つのヴァージョンがある。
一つは「バー」ヴァージョンで、バーテン(パック)の幻想の一夜、バーの従業員とお客たちの繰り広げる恋愛狂騒劇で、アルコールが人の目を迷わす魔法の媚薬となっている。
「スクール」ヴァージョンは、森の中の小さな学校が舞台となって、中年の演出家(オーベロン)は回想の中で、戦後から現在までを魔法の翼で飛び回る少年時代の自分(パック)に出会うという設定である。
そして今回の演出となっている「マスク」ヴァージョン。
昼の世界=アテネの町は素顔のままで、夜の世界=妖精の世界ではオーベロンやタイテーニア、パック、妖精たちはマスクをして登場し、3つのヴァージョンの中では原作に最も忠実なスタイルの演出といえる。
ヒポリタとタイテーニアを演じる吉沢希梨、イージアス、ボトムを演じる円道一弥はベテランの味を出しているが、全体的な印象としては薄っぺらで、元気さを感じない。
シェイクスピア・シアター25周年記念公演としての『リア王』が過去の総決算とすれば、『夏の夜の夢』は再出発の門出を飾る上演ともいうべきだろうが、17、8期生の中堅どころの退団でメンバーがほとんど入れ替わり、吉沢希梨、円道一弥の二人のキャリアとの溝がますます深まり、ギャップがありすぎて全体のしまりが欠ける。
そのせいか、今回の上演は退屈で眠かった。

(訳/小田島雄志、演出/出口典雄、99年5月29日(土)14時、東京グローブ座にて観劇。
チケット:4000円、座席:1階B列22番)

 

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