高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   劇団"吟遊詩人"試演会・シェイクスピア4作品オムニバス        No. 1999-007
空白

― TO BE OR NOTTO BE / 勝手仟版・シェイクスピア抜粋劇 ―

 『ペリクリーズ』の説明役である詩人ガワーを案内人にしたシェイクスピアの4作品のオムニバス形式試演の一夜を楽しんだ。
 オムニバスの演目は、『マクベス』、『ハムレット』、『ロミオとジュリエット』、『ヴェニスの商人』の4つ。
 それぞれの見せ場をうまく脚色して、部分でありながら全体のストーリーが分かるように工夫を凝らしている。
 『マクベス』では3人の魔女を軸にしてマクベスの運命が展開される。
 登場するのは、3人の魔女、マクベス、バンクォー、ロス、ヘカテ、マクベス夫人である。
魔女の予言、マクベス夫人が夢遊病状態で(血の付いた)手を洗う場面を使って、ダンカン殺しをはじめとした行為を明らかにしていく。
 案内人ガワーが、イングランド国王ジェイムズ一世が魔女の予言通りの、バンクォーから数えて8代目であることを解説し、史実ではダンカンが暴君であり、バンクォーこそダンカン殺しの真犯人であったことを補足説明する。
 『ハムレット』は、ポローニアスとクローディアスがハムレットの狂気の原因を探るべくオフィーリアをだしにして、ハムレットと二人きりにして物陰に隠れて観察する。
 ガワーの説明で、ハムレットの年齢が墓掘り人の台詞から30歳と少しであることが知れ、ハムレットの生まれた前後の関係を考えると、彼はクローディアスとガートルードの間にできたことは間違いなく、オフィーリアとの関係も近親相姦であり得たことだと解釈する。
 ‘To be or not to be: That is the question’の英語での緊張した台詞は、ちょっと堅くて必死な感じがしたのも愛嬌であった。
 クローディアスを演じた海老沢慶達君はどこか茫洋としていて、およそらしからぬクローディアスであったが、逆に印象を深めたような気がした。
 『ロミオとジュリエット』は有名なバルコニーシーンであったが、ロミオとジュリエットの燃えるような熱き思いが、演ずる若い二人から今一つ伝わってこなかった。
 最後の『ヴェニスの商人』の法廷の場面で、『マクベス』で魔女を演じた3人のうち2人が、裁判官役のポーシャと書記役のネリッサを熱演した。
 ポーシャ役の山形佳子さんは風邪気味で声が出るか心配だったと、終演後ホールでお友達に話されていたが、なかなかどうして気合が入って熱演であった。
 シャイロックを演じた飯田治君、役得ではあったが力不足なところがあった。
 シェイクスピアはなぜにかくまでもユダヤ人のシャイロックを完膚なきまでにやっつけるか、ガワーの解説がまた興味深い。
 ガワーは、シェイクスピアが幼くして家の没落を見、ユダヤ人の高利貸しに苦しめられる父親を目にしてきたからだと解釈する。
 試演作品ごとに詩人ガワーの口上を借りて、作品のキーポイントともいうべきところを鳥飼仟氏の解釈を取り入れた意欲的な試演会であった。

(総合指導/鳥飼仟、99年4月13日(火)18時、野方区民ホール(野方WIZ)にて観劇)

 

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