高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   喇叭や公演『中年ロミオ』                        No. 1998-018
白背景10

 劇場内の世の中の不景気を吹き飛ばすような盛況さに驚かされる。
連休明けの今日が初日、開演時間7時半の紀伊國屋サザンシアターはほぼ満席状態である。
 若い人が結構多く、タイトルとは反対に中年組は少数派、僕のようにシェイクスピアの『ロミオ』に惹かれてきている者はもっと少数派だろう。若い人の大半はおそらく<ラッパ屋>の名前で見に来ているように見える。
 ラッパ屋の号外チラシによると、この『中年ロミオ』が今世紀最後の公演で次は2000年の秋まで休演ということであり、しばらくは充電期間ということであろうか。
 この『中年ロミオ』はシェイクスピアとはまったく関係なく展開し、ロミオとジュリエットはギャグとして、そのふりをした舞台衣装で登場するだけで、シェイクスピアとの接点といえばそこだけと言える。
 では何がロミオなのかというと、実はフランスのブランデーの名前としてこのドラマに使ったところがミソである。
 開演で幕が開くと、舞台中央に看板広告として大きくこのブランデー<ロミオ>の文字が目に付く。
舞台はこの広告塔が正面に目に見えるマンションの一角で展開されていく。
 初めの印象はテレビドラマと思うような進行であったが、そのあたりがむしろ若い人に受けている所以であろうか。
 平田オリザの『演劇入門』に従えば、こういう劇こそ従来のメッセージタイプとは異なり、自分の表現したい欲求の産物なのであろうと思ったりもした。
 ノリに乗ったノッテルドラマで、面倒くさい理屈などいらない、お客さん楽しんでくださいというものであろう。
 内容としては、中年のさえないサラリーマン村田(平田満)が<ロミオ>の広告塔の見えるマンションに引っ越してきて、お隣の、セクシーではあるがブスでグラマー、頭の方も今一つの若い娘マリコ(渡辺絵里子)に惚れてしまう。村田は実は離婚したばかりで、別れた妻はフランクな付き合いをしたいということで、娘ともども、別れた原因である若いツバメのピザ配達員の泉君(花組芝居の植本潤)をも引き連れ、元の夫である彼をこのマンションに押しかけで訪ねてくる。
 ブランデー<ロミオ>の宣伝担当の青年松阪(木村靖死司)がマリコを宣伝に起用することを思いつき、おまけに惚れてしまうが、商品(広告モデル)に手を付けてはならないという教えを守ろうとする。
 ところがそのことを教育した上司の部長鮫島(俵木藤汰)に彼女を取られそうになり、それを阻止しようと村田はパンツ一丁の下着姿でベランダからマリコの部屋へとよじ登る。
 その恰好をマリコを追っかけるパパラッチに写真を取られ、マリコは広告モデルを下ろされ、二人はしばらく隠れて一緒に暮らすがそれも長続きしない。
 一方では村田の妻も若いツバメに飽きられたところを、かの鮫島部長と一緒になる。
 村田はマリコと別れた後、一時道路工事人に身を落とし、マリコも落ちぶれ一時はストリッパーになる。
この両者、やがては成功し、村田はレストランのチェーン店<ロミオ>のオーナーとなり、マリコは売れっ子の女流作家となって再会することになる。
 これが話しの主筋で、ブランデー<ロミオ>の広告塔がレストラン<ロミオ>の広告塔になるところが第二のミソともいえようか。脇筋としては、このマンションの住人たちが絡んでのドタバタ劇ということになる。
 ギャグとしてのロミオとジュリエットは、この村田と泉がその衣装で扮するだけのことである。
 真面目なシェイクスピアから、たまにはこんなお遊びを楽しむのも一興かも知れない。

 

(脚本・演出/鈴木 聡、1998年11月24日(火)19時30分開演、
紀伊國屋サザンシアターにて観劇。 チケット:4000円、座席:16列9番)

 

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