高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   サム・メンデス演出の 『オセロー』                No. 1998-004
白背景10

 イアーゴー役のサイモン・ラッセル・ビールの目の動きが凄く、不気味であった。
 舞台の奥行きの深さから、オペラグラスなしでは自分の席からこのすごさが伝わらないのが残念であった。
 イアーゴーがオセローを嫉妬で狂わせていく不条理な悪行は、どことなく単簡としており、イアーゴーが持っているねっとりとした爬虫類的な、ぬめぬめした悪さを感じなかったのが多少物足りなかった。
 オセローを嫉妬の狂気に陥れた後、その悪行から嘔吐を催すところなどは悪に徹しきれていない様を示しているかのようでもあり、あるいは、あまりの効き目に自らがその毒気に毒されてしまったがゆえに吐瀉してしまったともいえ、これまでに見られなかった面白い演出だと思った。
 場面の転換は小気味よいテンポで進む。
 各場面はときに息詰まるほどの静寂に包まれ、その中で時計の時を刻む音や、虫の声などがその静寂さを際立たせる。
 場面転換にパーカッションが神経を掻き撫でるようにして演奏されるのも効果的であった。
 デズデモーナが歌うことになっている「柳の唄」は蓄音機を鳴らすことで効果を狙っていたが、むしろデズデモーナを演じるクレア・スキナーの生の唄声を聞きたかった。
 休憩の間の舞台上のハンカチについては、プログラムを先に読んでいたので、推理小説で先に犯人を知ってしまったようで、その効果のほどは宣伝ほどには感じなかった。
 この上演は舞台設定で見る限りセゾン劇場では単調に過ぎた感じで、パナソニック・グローブ座を使用した方が効果的だったような気がした。

 

(演出/サム・メンデス、1998年1月25日(日)13時30分開演、銀座セゾン劇場にて観劇。
チケット:9200円、座席:13列19番)

 

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