高木登劇評-あーでんの森散歩道
 
   子供のためのシェイクスピア 『リア王』             No. 1997-011
空白

 本当におもしろいものであれば、それは基本的には子供用とか大人用とかの区別は必要ないだろう。
 今年で3回目を迎える山崎清介の「子供のためのシェイクスピア」も、子供のためと銘打っているものの、子供を意識して話を単純化したりしていないし台詞もことさら簡単にはしていないが、耳に聴いて分かるようには工夫されている(脚本担当の田中浩司談)。
 子供のためとあるが、非常に斬新な試みに驚かされる。
 『リア王』は上演するにあたって、そのリアリティをいかに感じさせるかが非常に難しい作品だと思うが、それを子供にとってどのように見せられるものにし得るか興味あるところである。
 舞台での物語の展開は、終わりの部分から始まることで、この劇を知っている者に対してまず意表を突く。
 コーデリアが扼殺され狂気に陥った絶望のリアを、山崎清介が操るリア王の人形が見つめ、なぜそのようなことになったのか、ことの顛末をケントに物語ってもらうことから始まる。
 配役の面白さでは、コーデリア役が道化役をも演じ、ゴネリルとリーガンの役を男優が演じ、それが実に適役というか、はまっているという感じで新鮮に思えた。また、この二人を演じる役者が、たすきがけにそれぞれの夫である、コーンウォール公、オールバニー公を演じていることも面白い。
 グロスター伯がドーヴァーの断崖絶壁から飛び降りる場面は、椅子を高く積み上げたところから落下するところを黒子役たちが抱きとめることでリアリティをもたせる。
 休憩時間を除けば2時間程度に凝縮されているので省略もかなりあるが、そのエッセンスは十分保っているといえる。
 決して子供のためだけではない、大人も楽しめる意欲的な演出で、一書に観劇した小学生(6年生)の娘も十分楽しんだ。

小田島雄志訳により、構成/田中浩司、演出/山崎清介
7月20日(日)14時開演、パナソニック・グローブ座、チケット:4000円、座席:H列20番

 

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